エンゼルスというチーム(2020年版)
2019年のエンゼルスの戦いぶり
知将マイク・ソーシア監督の下、2000年台はプレーオフ常連だったエンゼルスだが、最近5年はプレーオフ進出を逃している。
2018年オフにマンネリ気味だったマイク・ソーシアの10年契約が切れたところでブラッド・オースマス新監督を迎えた。経験重視でオールド・スクール的な采配スタイルのソーシアに対し、現代的なデータ重視のオースマスは期待された。しかし結果は2019年は72勝90敗と20年ぶりの90敗を喫し、惨敗のシーズンに終わった。
低迷の理由が投手陣にあることは明白だ。元々脆弱だった投手陣に2018年オフに補強したのはケーヒル、ハーヴィー、アレンという実績が売り物のベテラン3投手。しかしこれが全くの大誤算で絵に描いたような「安物買いの銭失い」。ハーヴィー、アレンは前半で解雇され、ケーヒルは敗戦処理に降格。そして7月上旬にエースのスキャッグスが急死して、ローテーションは壊滅に追い込まれた。この状態では監督がオースマスでなくても結果が大きく異なることはなかっただろう。しかしオースマスは特に目新しい戦法や起用もなく、先発を早々と交代させてブルペンに負担を強いるのはソーシア以上だった。その結果オースマスはわずか1年で解雇された。
ポジョションごとの弱点を把握
下の表は2019年シーズンで守備位置ごとにどのくらいのWAR(*)を上げたかのランキングである。上の方にあるほど成績が良い。
黒塗りしてあるセルがエンゼルスだ。CF(センター)にはマイク・トラウトが陣取っているのでメジャートップのWAR5.7を叩き出している。大谷が務めたDHも高い数値を上げている。一方でSP(先発投手)、C(捕手)、1B(一塁)の3つのポジションは起用した選手が全く活躍していないことが明白だ。この3つに加えて三塁やレフトも補強ポイントであることがわかる。
https://www.baseball-reference.com/leagues/team_compare.cgi
(*)WAR(ダブリュ・エー・アール、Wins Above Replacement)
打撃、走塁、守備、投球を総合的に評価して選手の貢献度を表す数値。「同じポジションの代替可能選手(Replacement)に比べてどれだけ勝利数を上積みしたか」を表す。代替可能選手とはぶっちゃけ並以下の選手のことで、そういう選手を起用したのと比べて何勝くらい勝利数に貢献したかを表す。WARがゼロやマイナスになると、誰と取っ替えても戦力がアップする、つまり事実上起用する価値のない選手ということになる。
若手を育成できない
エンゼルスからはこの20年近く一流と言えるような投手がほとんど育っていない。サイ・ヤングを狙えるほどの投手と言えば、ジョン・ラッキー、アービン・サンタナ、ジェレッド・ウィーバーくらいしか思いつかない。あとは抑えのK・ロッドくらいか。投手を育てられないチームに未来はないだろう。
若手が育たない根源にあるのは大物FA選手の獲得(特にFA野手)にのめり込んで、若手の育成がおざなりになってしまったことだ。2010年以降も、数多くの有力FA選手を獲得し大型補強を敢行したが、結果として効果的だったと思われる補強は少なく、トレード下手と言わざるを得ない。そして、トレードのたびに代償として有望若手選手(プロスペクト)を放出してきたため、マイナーが枯渇していった。
2000年台はメジャーでも屈指の質と量と言われたエンゼルスのマイナーだったが、2020年のメジャーのベスト・プロスペクト100人に入っているエンゼルスの選手はわずか2人(アデルとマーシュの外野手2人)。2019年のプレーオフに進出しつつ、多くのプロスペクトを抱えるレイズ(6人)、ドジャース(5人)と比べると育成力の差は歴然としている。監督やGMのクビをすげ替える前にスカウトやマイナーのコーチ陣をレイズあたりと全取っ替えした方がいいんじゃないか?
2019年オフの動き
オフのFA最大の目玉である地元オレンジ・カウンティ出身の豪腕ゲリット・コールの獲得を目指したが、ヤンキースの財力の前に屈してしまった。方針転換して獲得したのはのレンドーン三塁手。もちろん素晴らしい選手なのだが、エース級の先発投手の獲得という最大の課題は放置されてしまった。
何とか獲得できた先発投手はテヘランとバンディ。2人とも通年でローテーションを守ってきた実績はあるがエース級というにはほど遠く、せいぜい2番手か3番手。何とか数を揃えたという印象は拭えない。1月になってアンドリースも獲得した。昨年は1度も先発していないが、エンゼルスではスプリングトレーニングでは先発として考えているという。大丈夫か?
結局、先発投手、捕手、一塁手という補強ポイントは改善されずに終わった感が強い。先発はコールに注力しすぎてプランBがなかった、捕手は各チームとも人材難、一塁手はプーホルスがいるので積極的な補強に動きにくいという事情だ。
ドジャースとの超美味しいトレードが夢と終わる
2月上旬、ドジャースがレッドソックスからムーキー・ベッツを獲得するトレードに絡んで、レンフィーフォを交換相手にドジャースから強打のペーダーソンと先発右腕ストリップリングを獲得できそうだというニュースが流れ、エンゼルスファンを色めき立たせた。控え内野手でワールドシリーズに行ったチームのレギュラー2人を獲れるという夢のようなトレードだ。(OC Register紙:内野はレンドーンで大補強!残るはシモンズ延長問題(2020/2/5))
しかしこともあろうかオーナーのモレノがトレードがなかなか進展しないことに腹を立て、ケツをまくってトレードから手を引いてしまったという。こんな優良なトレードをオーナー自ら潰すとは何ごとだ!?モレノは勝つ気があるのか?単に自分の好きな選手でチームを作りたいだけじゃないのか?モレノがエンゼルスを買った直後は熱意と理解力のあるオーナーだとファンからとても好意的に受け止められて評判も高かったモレノだが、独りよがりの頑固な老人というマイナスイメージが決定的になってしまった。(OC Register紙:外野はアップトンの復活とグッドウィン次第(2020/2/10))
大谷の二刀流復帰が最大の戦力アップ
エンゼルスの現在のローテーションを眺めていると、もっとも信頼感の高い投手は大谷になりそうだ。大谷の投手としての復帰は5月中旬と言われている。当初は球数制限も厳しいものになるだろうが、万全の状態で戻ってきてもらいたい。プレーオフなどで一発勝負の試合があれば大谷が先発することは間違いないだろう。