チーム紹介 2020年(監督、GM、オーナー)

チーム紹介 2020年(監督、オーナー、GM)

2018年オフ、それまでチームを19年間率いたマイク・ソーシア監督との契約を更新せず、ブラッド・オースマス氏を監督に迎えた。経験や勘を重視する、いわゆるオールドスクール派のソーシアから現代的なデータも駆使するオースマスはエンゼルスに新風を吹き込むだろうと期待された。

しかし2019年のエンゼルスは20年ぶりの90敗を喫し、オースマスは3年契約だったにもかかわらずわずか1年で解任された。メジャーでも最低レベルの先発投手陣では誰が監督でもあまり結果は変わらなかったとも思うが、選手起用や作戦に目新しいものはなく何の工夫もなく負けたという印象だ。

そこでエンゼルスが新監督として白羽の矢を立てたのがジョー・マドンである。ちょうどカブスの監督として5年契約が満了し、しかもマドンは2005年までエンゼルスのベンチコーチをしていたこともあってトントン拍子に話は進んだ。そして2019年10月、3年契約でエンゼルスの新監督に就任した。「元々ソーシア退任後の本命はマドンでオースマスはあくまでも繋ぎ役、マドンとカブスとの契約が満了するのを待っていた」という説もある。

ジョー・マドンとタッグを組むビリー・エプラーGMも契約期間を1年延長して今年が最終年だ。勝負の年である。

一方でオーナーであるアルトゥロ・モレノは2003年に球団を買収した当時は熱心でファン思いだと非常に好意的に受け止められていた。しかし独裁的なモレノはしばしば現場に介入し、結果としてそれがチームの弱体化を招き、長期低落傾向から脱出できない原因になっている。ファンも次第に愛想を尽かしているかもしれない。


ジョー・マドン(66歳)

魔術師の異名を取る名将!エンゼルスを再生できるか?

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エンゼルスのベンチコーチからレイズ、カブスを指揮して名監督に
ペンシルバニア州出身。大学卒業後はエンゼルスのマイナーの捕手だったがメジャーに昇格することなく引退。その後、エンゼルスのスカウト、打撃コーチ、マイナーリーグの監督などを経て、1996年から2005年までエンゼルスのベンチコーチを務めた。1996年と1999年には代理で監督を数試合務めている。2002年にはマイク・ソーシア監督の下でワールドシリーズ制覇に貢献した。

マドンが監督として頭角を現すのは2006年にタンパベイ・デビルレイズ(現在のタンパベイ・レイズ)の監督に就任してからである。当時のデビルレイズは現在のエンゼルスと同じように投手が壊滅的な状態で、毎年最下位争いをしていた。しかしマドンは監督就任3年目には見違えるほどに投手陣を建て直し接戦にも強くなった。チームはそのまま球団創設初の地区優勝を成し遂げ、勢いに乗ってワールドシリーズに進出(「レイズ旋風」と呼ばれた)。ワールドシリーズではフィリーズに敗れたものの、前年まで2年連続最下位のチームをワールドシリーズまで導いたマドンは絶賛されアメリカンリーグ最優秀監督となった。

2015年からはその手腕を買われシカゴ・カブスの監督に就任。就任2年目の2016年はカブスを108年ぶりのワールドシリーズ制覇に導き、いわゆる「ヤギの呪い」を解くことに成功した。

15年以上にわたる監督生活で1252勝、1068敗、勝率.540を誇っている。

選手育成にも長ける
マドンは選手の育成にも定評がある。レイズは本拠地タンパベイがスモールマーケットのため有力FA選手を勧誘することが難しく伝統的に選手を育成することに長けている。昨年のチーム総年俸は約69ミリオンで、これはエンゼルスよりも100ミリオン近く少ないが、それでも自前で育成した選手を中心にプレーオフに進出している。若手の育成がほとんど進まないエンゼルスにそのノウハウを是非とも注入して欲しいものだ。

魔術師と呼ばれる常識にとらわれない多彩な戦略
マドンは一見奇襲と思えるようなあっと驚く戦法を採ることで知られ魔術師と呼ばれる。例えば投手の打順を8番にするというのもマドンが先鞭を付けた。外野手を4人にするシフトを考えたのもマドン。また投手に一旦外野を守らせ、その後またマウンドに上げるという日本の高校野球のような戦法を取ったこともある。

2017年のカブスでは1年間で打順を143回も入れ替えたがリーグで2位の得点を挙げた。マドンは「私がクレイジーなことをするときは、いままでの経験や数字に基づいている」 と語っている。単なる思いつきでやっているのではなく、それなりの裏付けや自信があってのことだと言いたいのだろう。

二刀流大谷をどう使う?
マドンは1990年代にエンゼルスで働いていた時すでに二刀流というコンセプトに興味を持っていたという。打って投げられるという大谷の特異な才能はマドンの想像力を大きく刺激しているようだ。大谷登板時にはDHを解除して打席にも立たせる(リアル二刀流)や大谷を1番に置くと言うことはすでに頭の中にあるとのこと。大谷登板とオープナーを組み合わせるということも考えられる。


ビリー・エプラー(43歳) (GM/ゼネラル・マネジャー)

2020年は契約を1年延長。過去4年全く結果を出せていないので進退がかかる年

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カリフォルニア州サンディエゴの出身。コネチカット大学時代に投手としてプレーしていたが、右肩を痛めて選手を断念した。大学では会計学を専攻し、1998年に卒業後は財務アナリストとして活動するが、わずか9ヶ月で退職。その後インターンとしてNFLのワシントン・レッドスキンズで働いたのがスポーツビジネスへの嚆矢となった。

ロッキーズで頭角を現し、ヤンキースではGMの右腕に
2000年にコロラド・ロッキーズのパートタイムスカウトの職を得て野球界へ。そして2004年シーズン終了後にニューヨーク・ヤンキースへ移った。分析力に長けたエプラーはいつしかブライアン・キャッシュマンGMの右腕と呼ばれる存在になっていった。2014年にヤンキースがポスティング制度で田中将大を獲得しようとした際に、エプラーは来日を重ねて田中獲得への道を拓き、その手腕は確固たるものになった。

エンゼルスは2代前のGMトニー・リーギンス(注*)を2011年に解任した時にも、エプラーは新しいGMの候補に上がっていた(結果的にはダイアモンドバックスのGM補佐だったジェリー・ディポト氏を採用)。

エンゼルスのGMに就任
2015年、そのディポトGMが監督のマイク・ソーシアと意見の違いから衝突し、「やってられない」と自らGM職を放棄し辞職した(注**)。その後釜として2015年10月4日、エプラーはエンゼルスのGMに就任した。エンゼルスとは2019年までの4年契約を結び、昨年さらに1年契約を延長した。

そして2017年12月、大谷翔平の獲得に成功して名を挙げた。大谷を獲得できた要因はソーシア監督を説得して、大谷の目の前で二刀流サポートの確約をさせたことだと言われている。大谷には彼をレースカーに見立てて、チームが彼をサポートする体制を説明したと言う。

優勝と育成、大きな課題
エンゼルスの大きな問題は、以前はメジャーでもトップクラスの質を誇ったマイナー組織が、この10年の度重なる大型トレードにより完全に枯渇してしまったことだ。特に投手の育成は全くと言っていいほど上手く行っておらず、2008年にデビューしたジェレッド・ウィーバー以来、ただの1人もエース級を育成できていない。お荷物球団からわずか5年でワールドシリーズを制したアストロズは、生え抜きの選手が中心であることを見てもわかるように、次から次へと有望選手を育てられるファームシステムの再構築は急務である。

また2019年のスカッグスの急死を受けて、スカッグスの遺族は医療用麻薬であるオピオイドを提供し一緒に使用していたのが球団内の人物だとしてエンゼルスを訴訟することを検討していると伝えられている。グラウンド外でも神経をすり減らすことが多そうだ。

失敗の多い補強策
エプラーがGMになった2015年秋以降、彼のとりまとめた補強策はあまり上手くいっていない。失敗と思える選手を挙げてみると投手はノラスコ、チャベス、ケーヒル、ハーヴィー、アレン、野手はコザート、ルクロイだろう。アップトンも成績の割に年俸が高すぎる。全盛期はちょっと過ぎてるんじゃないの?と思われるベテランと契約してはやっぱり裏切られるというのの繰り返しである。逆に成功した補強はシモンズ、ラ・ステラくらいだろう。

無策だったトレードデッドライン。みすみすタダでカルフーンに出て行かれる
一方で2019年キャリアハイの33本塁打を放ったコール・カルフーンはオフに2020年の契約延長オプションをチーム側から破棄されたのでFAで出て行ってしまった。契約延長する気がないのなら7月末のトレードデッドラインで放出して投手のプロスペクトでもゲットすればいいのにエプラーは動かなかった。チームは早々とポストシーズン進出は絶望的になっていたにもかかわらずだ。動いた時は失敗し、必要な時には動かないのでは頼りがいがなさ過ぎる。

後がない2020年
エプラーがGMになってからの過去4年、マイク・トラウトという現役最高の選手を擁しながらエンゼルスはポストシーズン進出どころか勝ち越しすら一度もない。2019年のチーム総年俸はチーム史上最高の177ミリオンに達し、メジャーでも6位になっているが借金18の体たらくだ。

  • 2016 74勝88敗 ア・リーグ西地区4位
  • 2017 81勝81敗 ア・リーグ西地区2位
  • 2018 81勝81敗 ア・リーグ西地区4位
  • 2019 72勝90敗 ア・リーグ西地区4位

これをエプラーだけに押しつけることは出来ないが、数字が全ての世界。2020年はエプラーの進退がかかるシーズンであることは間違いない。

(注*)トニー・リーギンスはエンゼルスのチケットセールスのインターンからGMにまで駆け上がった優秀な黒人だった。メジャーで初の黒人GMということで注目されたが、実質はオーナーのアルトゥロ・モレノのイエスマンに過ぎず、オーナーの鶴の一声で獲得したバーノン・ウェルズの不振の責任を取らされた形で解任された。

 

(注**)ディポトは就任1年目のシーズン中に、チームの打撃不振の責任を負わせる形で、ソーシアの永年の盟友だった打撃コーチ、ミッキー・ハッチャーを独断で解雇した。そのことが原因で二人の仲は修復不能になったと報じられている。さらに2015年、データをどう活用するかについて主力選手(プーホルスと言われている)がディポトGMのやり方に反発し、コーチ陣を擁護する姿勢を見せたためディポトは孤立した。結果としてエンゼルスはディポトを切らざるを得なくなった。


アルトゥロ・モレノ(64歳) (エンゼルス・オーナー)

エンゼルスを裸一貫から買収へ

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アリゾナ州出身。メキシコ系移民の子で、ヒスパニックとして初めて、アメリカのプロスポーツチームのオーナーになった。

2003年のシーズン中にエンゼルスを前オーナーのディズニーグループから買収した。ちなみに前年の2002年にエンゼルスはチーム史上初のワールドシリーズ制覇している。買収価格は180ミリオンドル(約160億円)だったが、2019年のチーム資産価値ランキングではメジャー8位の1900ミリオン(約2000億円)、買収時の10倍以上になっている。

貧しいメキシコ系移民の子であったが、野外広告のビジネスに成功し、会社上場、球団買収とアメリカンドリームを体現した。社員として入社した広告会社では10年足らずの間に、会社の利益を50万ドルから900万ドルにしたという超凄腕の営業マンだった。

子供の頃から野球好きで、球団買収は永年の夢だったという。一野球ファンとして経営する姿勢はファンの間で高い支持を得た。例えばチケット価格や球場内のビールが高すぎるとして値下げに踏み切ったことはモレノを語るエピソードとしてよく知られている。ホーム、アウェイを問わず、ほとんどのエンゼルスの試合を観戦している。ホームではオーナー席からしばしば抜け出して、ファンとコミュニケーションしている姿がよく見られた。

しかし、モレノが球団を買ってからすでに17年が経過しようとしているが、その間チームは世界一どころかワールドシリーズに進めてもいない。むしろここ5年は弱体化が進んでいる。モレノの名を上げたビールの値下げも、現在では1杯10.50ドルになっている。元々アメリカはビールの税金も安く、350ml.缶ならばスーパーで1本70セントくらいで買えることを考えるとずいぶん高くなってしまったものだ。モレノの熱意も冷めてしまったのか。

球団弱体化
モレノは選手獲得やチーム運営に対してしばしば口を挟み、その象徴的な例がバーノン・ウェルズの獲得だろう(後述)。モレノが短気で独裁の傾向があることはよく知られ、ウェルズ以外にも彼の鶴の一声でトレードが決まったり、選手やGMがクビになったことは枚挙にいとまがない。だがそれで上手く行った試しはほとんどなく、多くは失敗(ほとんどは大失敗)に終わっている。

結局、大型トレードに伴ってプロスペクトを放出し続けてチームは弱体化し、一方でサラリー高額化による球団経営の圧迫を招いたという批判も強い。

また自らがヒスパニックであることから、多少実力で劣っても中南米系の選手を優遇して入団させているのではないかという噂もある(いわゆるモレノ枠)。

部下が地道に積み上げてきたことがトップの一声でひっくり返る。一般社会でもよくあることだが、そんなタイプの人間はスポーツチームのオーナーには向いていない。似たようなオーナーはNBAなどにも多々いるが、ほとんどの場合チームは低迷し、有力選手からは逃げられ、ファンからは愛想を尽かされる。そう言えば、現場に口先介入するオーナーは日本にもいるなぁ。

ジョー・マドンがエンゼルスを再生できるかどうかはモレノが口出しせず、100%マドンとエプラーに任せるかにかかっていると言っても過言ではない。

以下にこれまでモレノが引き起こした事件を列記しておく。

バーノン・ウェルズ事件
トロント・ブルージェイズから2010年のオフにトレードで獲得したバーノン・ウェルズ外野手。ウェルズは成績に見合わない巨額の契約が4年も残っており、ブルージェイズの不良債権と思われていた。しかしモレノはウェルズの獲得を強力に働きかけ、当時のGMトニー・リーギンスに対して、「24時間以内にウェルズを獲得しなければ、お前はクビだ」と伝え、リーギンスはやむなくトレードに動いた。交換選手は当時長打力を売りに伸び盛りの捕手マイク・ナポリとファン・リベラだった。このトレードは酷評され「エンゼルスは史上最悪のトレードをした」「ウェルズを獲るくらいなら何もしないほうがマシだった」と言われるほどだった。

実際翌年のウェルズの成績は打率 .218、出塁率 .248はいずれもMLBワースト。結局わずか1年ほどでレギュラーの座を追われ、退団、引退することになった。そして気の毒なことだがリーギンスはウェルズ獲得と成績不振の責任を取らされオフに解任された。一方で放出したナポリは主軸を打つほどに成長し、しばしばエンゼルス戦でも痛打を浴びせた。その後球団を渡り歩きながらも2017年まで現役を続けた。

ジョシュ・ハミルトン事件
2012年オフにはまたもやモレノの強い意向でテキサス・レンジャースの主砲ジョシュ・ハミルトンと5年1億2500万ドルでFA契約したが、これまた大失敗に終わった。ハミルトンは薬物やアルコール中毒問題を当時から抱えていた。エンゼルスではケガと成績不振に苦しみ、離婚を機に再びドラッグやアルコールに手を出してしまった。この時多くのチームメートはハミルトンを手助けしようとしたがモレノは容赦せず、給料のほとんどを負担する形でレンジャーズへ出戻りさせてしまった。その後レンジャース戦では実質的に給料を払っているハミルトンにしばしば痛打を浴び、エンゼルスファンを苛立たせた。2017年でようやくハミルトンの契約は終了し、エンゼルスはハミルトン問題から開放された。

アルバート・プーホルス問題
2011年オフ、FAのアルバート・プーホルスと10年2億4000万ドルというメジャー史上2位の巨額契約を結んだ。すでに32歳になろうとしているプーホルスと10年契約はさすがに無謀と思われたが、モレノの強い希望で獲得に至った。

プーホルスは今でもエンゼルスの主軸を任されているが、移籍後は期待された成績には程遠く、カージナルス時代の輝きを一度も放っていない。近年は足の故障に苦しみ打率も2割台前半、ホームランも20本そこそこと言う状態だ。最近は逆方向に当てに行くような打撃が増えた。長打は打てなくなった分、何とかチャンスで打点を上げることで最低限の仕事はこなしているといった感じだ。プーホルスとの契約はあと2年残っており実質不良債権化している。ちなみにESPNでは2016年の時点でプーホルスとエンゼルスの契約をメジャー最悪の契約と論じている。
Albert Pujols is crowned Worst Contract In Baseball by ESPN(アルバート・プーホルスがメジャー最悪契約の座に輝いた)

ドジャースとのトレード離脱事件
2020年2月、ドジャースがレッドソックスから前MVPのムーキー・ベッツの獲得に動いた時、そのトレードに絡んでエンゼルスは控え内野手のレンヒーフォを交換要員に、ドジャースから36本塁打を放ったピーダーソンと先発4番手のストリップリングを獲得するというエンゼルスファンにとっては夢のようなトレードが報じられた。

しかしレッドソックスが交換要員の健康状態について疑義を挟んだことからなかなかトレードが決まらなかった(最終的にはサインできた)。その間モレノはトレード話がなかなか進展しないことに腹を立て、ケツをまくってトレードから離脱してしまった。エンゼルスファンを狂喜させたトレードをオーナー自ら潰すとは・・・あきれてモノが言えないとはこのことだ。

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