2023年のエンゼルスの救援投手陣を紹介する。
ブルペンは強化が進まず不安定要因が増加
昨年もブルペンが炎上して終盤に逆転されるという試合を何度も目にした。複数年契約したループ、テペラは平凡な成績で期待外れであった。さらに先発がある程度良いピッチングをしていても6回くらいで代えてしまい、結果として不調なブルペンの投球回数が増えるという悪循環を引き起こしていた。先発を早く引っ込める傾向はマドン前監督もネビン監督も変わらず、もう少し先発を引っ張る度量が欲しかった。
それでも救援投手のチーム防御率は4.59(2021年)から3.95(2022年)へと改善した。これは終盤クローザーを務めたハーゲット、キハダらの成績が良かったためだろう。
しかし絶対的な守護神だったイグレシアスが移籍し、クローザー未確定の状態で開幕を迎えそうだ。クローザー候補は昨年終盤に好投を続けたハーゲットか新加入のエステベスだろう。ハーゲットはスタミナに問題があり連投が利かないのが難点だ。候補の1人と伝えられるキハダは制球に課題があり、ボールが先行するともう真ん中をめがけて投げるしかなくなるのでクローザーはやめてもらいたい。
退団した主なリリーフ投手
- ライセル・イグレシアス(右投げ)(ブレーブスへトレード、交換相手タッカー・デービッドソン)
- アーチー・ブラッドリー(右投げ)(FA、所属先決まらず)
- マイク・マイヤーズ(右投げ)(FA→ロイヤルズへ)
- オリバー・オルテガ(右投げ)(DFA→ツインズへ)
- トゥーキー・トゥーサン(右投げ)(FA→ガーディアンズへ)
- エルビス・ペゲーロ(右投げ)(ブルワーズへトレード、交換相手はレンフロー)
- ジェイソン・ジャンク(右投げ)(ブルワーズへトレード、交換相手はレンフロー)
- タイ・バトリー(右投げ)(FA→所属先決まらず)
新加入のリリーフ投手
- カルロス・エステベス(右投げ、ロッキーズから)
ロッキーズからFAとなっていたカルロス・エステベス投手(30歳)を守護神候補として2年1350万ドルで獲得した。身長198センチのパワーピッチャーでハマれば守護神として活躍するかもしれない。
他にはガーディアンズからFAだったジャスティン・ガーザ(28歳)と1年契約したが、ガーザは今年はマイナーでしか投げておらず、それも防御率4.64(42.2イニング)と戦力になりそうな成績ではない。元ブレーブスのジェイコブ・ウェブ(29歳)、元アストロズのクリス・デベンスキー(32歳)、元ヤンキースのジョナサン・ホルダー(29歳)らのリリーフ投手ともマイナー契約したが、彼らも昨季メジャーでほとんど投げておらず保険的な意味合いしかないだろう。
つまり今年のブルペン補強は実質エステベスだけで、若手の成長を促す戦略なのだろう。
2023年エンゼルスの救援投手紹介
-
- カルロス・エステベス(30歳、右投げ)
- ジミー・ハーゲット(28歳、右投げ)
- ホセ・キハダ(26歳、右投げ)
- アーロン・ループ(34歳、左投げ)
- ライアン・テペラ(34歳、右投げ)
- ハイミ・バリア(25歳、右投げ)
- アンドリュー・ワンツ(25歳、右投げ)
カルロス・エステベス(30歳、198cm、右投げ)(背番号53)
長身の豪腕投手。守護神として期待!
2022年の成績(ロッキーズ)
試合数 | 勝利 | 敗戦 | イニング | 防御率 | 三振 | 四球 | WHIP |
62 | 4 | 4 | 57.0 | 3.47 | 54 | 23 | 1.180 |
2年総額1350万ドルで契約。2023年は675万ドル。
ドミニカ出身。2011年にロッキーズと契約してプロ入り。2016年にメジャーデビュー。最速101マイル、平均で97.5マイルのフォーシーム・ツーシームが武器のパワーピッチャー。防御率3.47はリリーフ投手としては今ひとつだが、その理由としてこれまでプレーしていたロッキーズの本拠地は標高1600メートルの高地にあるため気圧が低く、打球への空気抵抗が少ないのでボールがよく飛び、メジャー屈指の打者優位の球場だったことがある。加えて空気が薄いと変化球のキレも悪くなる。
2023年はクローザーの最右翼だが、エンゼルスへ移籍したことでパークファクターがなくなり数字を延ばすチャンスもある。
ジミー・ハーゲット(29歳、190cm、右投げ)(背番号46)
超変則のサイドスロー。昨季終盤クローザーを務める
2022年の成績
試合数 | 勝利 | 敗戦 | イニング | 防御率 | 三振 | 四球 | WHIP |
49 | 2 | 1 | 69.0 | 2.48 | 63 | 15 | 0.913 |
2023年はメジャー最低保証年俸(70万ドル)。
フロリダ州出身。2012年にブレーブスから40巡目指名を受けたが入団せず南フロリダ大学へ進学、2015年レッズから6巡目で再度指名されてプロ入りした。2019年にメジャー昇格したものの、オフにはDFAされ、そこをレンジャースが獲得した。2021年夏にはレンジャースから解雇されたがすかさずエンゼルスが拾った。細身にメガネがトレードマークだ。
2022年は開幕からメジャーに入り、7月末にイグレシアスがトレードされるとセットアッパーやクローザーとして投げることが多くなった。ハーゲットは8月と9月に23試合、31.1イニング投げて自責点2、防御率0.54という圧倒的な成績を残した。
右サイドスローのクイック投法で、極めて変則的なフォームから投げる技巧派右腕。フォーシームの平均球速は91マイルだが、技巧派に転身する前はマイナーで97マイルの速球を投げたこともある。このフォーシームにスライダー、カーブ、チェンジアップが持ち球で、調子が良いと素晴らしくキレのいい変化球を投げる。「挨拶代わりにフォアボール」というエンゼルスのブルペン陣では例外的にコントロールもいい。身長は191cmもあるのに体重は77kgしかなく、まるでバスケットボール選手のようだ。この細い体型のせいなのかスタミナに難があり連投が利かない。できれば中2日は明けて投げさせたいので起用法はやや難しい。
ホセ・キハダ(27歳、180cm、左投げ)(背番号65)
ストレートで押す豪腕タイプ。三振も多いが四球も多く緊張した場面では不安が残る
2022年の成績
試合数 | 勝利 | 敗戦 | イニング | 防御率 | 三振 | 四球 | WHIP |
42 | 0 | 5 | 40.2 | 3.98 | 52 | 21 | 1.131 |
2023年はメジャー最低保証年俸(70万ドル)。
ベネズエラ出身。2013年、アマチュア・フリーエージェントでマーリンズと契約。メジャーデビューは2019年。34試合に登板したものの防御率5.76とふるわずオフにはDFAされたが。エンゼルスに拾われた。
投球の7割を占める最速97マイルのフォーシームで押しまくる投球スタイル。三振は多く取るが2イニングに1つはフォアボールを出しているように制球力には課題を抱えている。ボールが先行すると細かいコントロールがないだけに真ん中めがけて直球を投げるしかなく、接戦で投げさせるのは非常に怖い。それでも2022年はセットアッパーを任されることが多く、いかにエンゼルスのブルペン陣が脆弱かを物語っていた。
2023年により重要な場面で投げさせてもらえるかは制球力の向上にかかっている。
アーロン・ループ(35歳、180cm、左投げ)(背番号28)
2021年の防御率0.95は何だったのか?キャリアハイと長期契約してまた失敗なのか?
2022年の成績
試合数 | 勝利 | 敗戦 | イニング | 防御率 | 三振 | 四球 | WHIP |
65 | 0 | 5 | 58.2 | 3.84 | 52 | 22 | 1.295 |
2022年から3年総額1700万ドルで契約。2024年は球団オプション。
ルイジアナ州出身。2009年ドラフトでブルージェイズから9巡目(全体280位)で指名されプロ入り。2012年にメジャーデビューすると、その後フィリーズ、パドレス、レイズ、メッツと移籍。2020年は短縮シーズンながら防御率2.52、WHIP 0.840の好成績を上げると、2021年メッツでは56.2イニングでわずか9失点(自責点6)、防御率0.95とキャリア最高の成績を上げた。オフにエンゼルスと3年総額1700万ドルで契約した。
前年が圧倒的でエンゼルスでも大いに期待されたループは開幕から5月の14連敗直前までは良かった。17試合、16.2イニングで防御率1.62だった。しかし連敗を境として急に打たれ始め、その後の48試合は防御率4.71と期待外れの成績に終わった。またしてもキャリアハイの成績を上げた選手と複数年契約して失敗の実例となるのだろうか。
左のサイドスローで、フォーシームは全く投げず、平均92マイルのシンカーが全投球の75%以上を占める。またほとんど本塁打を打たれないことでも知られ、プロ入り後11年、466イニングで34本しか打たれていない。これは9イニング換算でわずか0.66本である。
すでに35歳なので年齢から来る衰えがどのくらいなのかが心配な点である。
ライアン・テペラ(35歳、185cm、右投げ)(背番号52)
キャリアハイの2021年から一転して平凡な成績へ
2022年の成績
試合数 | 勝利 | 敗戦 | イニング | 防御率 | 三振 | 四球 | WHIP |
59 | 5 | 4 | 87.1 | 3.61 | 47 | 20 | 1.081 |
2022年から2年1400万ドルで契約。2023年の年俸は700万ドル。
テキサス州出身。2009年ブルージェイズから16巡目、全体496位で指名されてプロ入り。メジャーデビューは2015年。以降リリーフ専門である。ヒジの故障もあって2019年オフにDFAされたが、カブスに拾われそこで開花した。
2020年以降は奪三振率(SO9)が8.5から11.9へと大幅アップ。スライダーとカットボールで三振が取れるようになった。2021年は防御率2.79とキャリアハイの成績をあげて複数年契約を勝ち取ったテペラだったが、2022年はほぼキャリア平均の数字に落ち着いてしまった。年齢も35歳となり昨年以上の成績はあまり期待できないだろう。
ハイミ・バリア(26歳、185cm、右投げ)(背番号51)
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何気にキャリアハイの2022年、今季はどう使うのか?
2022年の成績
試合数 | 勝利 | 敗戦 | イニング | 防御率 | 三振 | 四球 | WHIP |
35 | 3 | 3 | 79.1 | 2.61 | 54 | 19 | 1.034 |
2023年は調停を避け1年105万ドルで契約。
2018年のデビュー以来ずっと伸び悩んでいる印象のバリアだが、昨年はあまり注目もされず、出番も多くなかったものの、何気にキャリアハイの成績を上げていた。
バッタバッタと三振を取るタイプではないのでクローザーで使うのは躊躇われるし、かといって先発ローテーションに入っていくわけでもない。ロングリリーフとしてブルペン待機させるのもややもったいない。微妙な立ち位置だ。2023年はどのような起用法になるのか、どのような成績を上げるのか注目したい。
16歳でパナマからエンゼルスへ
パナマ出身。16歳でエンゼルスと海外フリーエージェント選手として契約。契約金は600万円ほどだった。4年間でルーキーリーグ、ルーキー・アドバンスド・リーグ、1Aと3階層6チームを昇格していき、2017年には大きくステップアップした。その年、1Aでスタートしたが、6月には2A、シーズン終盤には3Aと異例のスピードで昇格し、年間で7勝9敗、防御率2.80、7月にはマイナーリーグのオールスターにも選出された。
ジャイアンツ戦で1人の打者にメジャー記録となる21球を投げた
2018年は開幕はマイナースタートだったが、先発投手の相次ぐ故障でついにメジャー昇格。いきなりレンジャーズ戦に先発して勝利を上げた。そして2回目の先発となったジャイアンツ戦ではジャイアンツのベルト選手に対して、1打席でのメジャー記録となる21球を費やして、最後はライトフライに討ち取った。3-2になってからファウルで粘るベルトに対して、歩かせもせず12球連続でストライクを投げ続けた。
故意にメジャー昇格とマイナー落ちを繰り返された2018年
2018年、エンゼルスは投手に故障者が相次ぎ、加えてリリーフ投手を早めにつぎ込むのを好むソーシア監督の投手起用法もあって、投手の絶対数が足りなくなってしまった。苦肉の策として先発したバリアをマイナー落ちさせ(1度マイナー落ちさせると10日間はメジャーに上げられないルールがあるため)、代わりの投手を10日間登録するという方法で投手を確保した。このためバリアは10日に1度メジャーに上がって先発しては、マイナーに落ちるというサイクルを8月いっぱいまで繰り返すことになった。MLBで「オプション」と呼ばれる1シーズンに何度でもマイナーに落とせる契約条項が残っている先発投手がバリアだけだったためこのような起用法になった。
過酷な移動、精神的な負担も大きかっただろうが、結果としてはエンゼルスの先発投手の中では唯一の二桁勝利(10勝)を上げ、最も優れた防御率(3.41)を残した。
期待を裏切った2019年
2019年開幕当初は5番手スターターのポジションだったが、開幕直前にジャイアンツからクリス・ストラットンを駆け込みで獲得した関係でバリアはマイナーに落とされて大きくモチベーションを落としてしまった。結局ストラットンは0勝2敗、防御率8.59と全く使い物にならなかった一方で、バリアをマイナーで腐らせるというまさに最悪のトレードだった(ストラットンは5月にパイレーツへ放出された)。バリアはその後メジャーに上がったが、このシーズンは4勝10敗、防御率は3.41から6.42へと3点以上も悪化し大きく期待を裏切った。ルーキーイヤーに比べ見るからに体重も増加しコンディション調整にも失敗したように見える。
アンドリュー・ワンツ(27歳、193cm、右投げ)(背番号60)
メジャー3年目はさらなるステップアップが必要!
2022年の成績
試合数 | 勝利 | 敗戦 | イニング | 防御率 | 三振 | 四球 | WHIP |
42 | 2 | 1 | 50.1 | 3.22 | 52 | 21 | 1.152 |
2023年はメジャー最低保証年俸(70万ドル)。
ノース・カロライナ州出身。2018年、2018年のMLBドラフト7巡目(全体211位)でロサンゼルス・エンゼルスから指名されプロ入りした。ちなみに今年エンゼルスからDFA後にマイナーで契約を結び直したオースティン・ウォーレンとは年齢も出身も同じノース・カロライナ州、ウォーレンがワンツの1つ前の6巡目でエンゼルスに指名されている。メジャーデビューも同じ2021年7月だった。
2022年の成績はブルペン投手としては可もなく不可もなしという感じ。平均93マイルのフォーシームが投球の50%で、カッター、スライダー、チェンジアップを組み合わせる。何かに秀でた投手ではないが、防御率は2021年の4.94から3.22へとステップアップしている。
昨季は敗戦処理的な登板も多かった。2023年はより重要な場面で投げさせてもらえることを目指す年になるだろう。
ワンツで印象に残っているのは6月26日のマリナーズ戦。オープナーとして先発したが1番フリオ・ロドリゲスに危険球を、4番ジェシー・ウィンカーに死球を投じ、これが引き金となって8人の退場者を出す大乱闘が起きた。この件でワンツは3日間の出場停止処分を受けた。