チーム紹介 2022年(監督、GM、オーナー)

チーム紹介 2022年(監督、GM、オーナー)

エンゼルスは2015年以降、マイク・ソーシア、ブラッド・オースマス、ジョー・マドンと3人の監督で戦った。勝ち越したシーズンは一度もなく、チームの長期低迷から抜け出せていない。

GMはエリートとの呼び声も高かった前ビリー・エプラーGM(現メッツGM)は就任後5年連続で5割以下の成績しか残せず(就任後のトータルは332勝376敗、勝率.469)、契約を1年残して2020年オフに解任され、代わりに元ブレーブスのアシスタントGMだったペリー・ミナシアンがGMに就任した。ブレーブス時代は2016年に90敗したチームを1年で90勝チームに変え、2018年には地区優勝にまで押し上げた実績を持つ。

オーナーであるアルトゥロ・モレノは2003年に球団をディズニーから買収した当時は熱心でファン思いだと非常に好意的に受け止められていた。しかしモレノはしばしば現場に介入しては独善的な補強を要求し、結果としてチームの弱体化を招いて、長期低落から脱出できない原因になっている。買収時56歳だったモレノもすでに75歳、近年は独裁的な傾向に拍車がかかり、ファンもこの頑迷な老人に愛想を尽かしているように思える。


ジョー・マドン(68歳)

魔術師の異名を取る名将!勝負の3年目!

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エンゼルスのベンチコーチからレイズ、カブスを指揮して名監督に
ペンシルバニア州出身。大学卒業後はエンゼルスのマイナーの捕手だったがメジャーに昇格することなく引退。その後エンゼルスのスカウト、打撃コーチ、マイナーリーグの監督などを経て、1996年から2005年までエンゼルスのベンチコーチを務めた。1996年と1999年には代理で監督を数試合務めている。2002年にはマイク・ソーシア監督の下でワールドシリーズ制覇に貢献した。

マドンが監督として頭角を現すのは2006年にタンパベイ・デビルレイズ(現在のタンパベイ・レイズ)の監督に就任してからである。当時のデビルレイズは現在のエンゼルスと同じように投手が壊滅的な状態で、毎年最下位争いをしていた。しかしマドンは監督就任3年目には見違えるほどに投手陣を建て直し接戦にも強くなった。チームはそのまま球団創設初の地区優勝を成し遂げ、勢いに乗ってワールドシリーズに進出(「レイズ旋風」と呼ばれた)。ワールドシリーズではフィリーズに敗れたものの、前年まで2年連続最下位のチームをワールドシリーズまで導いたマドンは絶賛されアメリカンリーグ最優秀監督となった。

2015年からはその手腕を買われシカゴ・カブスの監督に就任。就任2年目の2016年はカブスを108年ぶりのワールドシリーズ制覇に導き、いわゆる「ヤギの呪い」を解くことに成功した。

15年以上にわたる監督生活で1252勝、1068敗、勝率.540を誇っている。

選手育成にも長ける
マドンは選手の育成にも定評がある。レイズは本拠地タンパベイがスモールマーケットのため有力FA選手を勧誘することが難しいため、自前で選手を育成することに活路を見いだしている。ア・リーグ東地区で優勝した2021年のチーム総年俸は約82ミリオンで、210ミリオンをかけながら地区4位に終わっているエンゼルスと比較すると極めて資金効率が高い。若手の育成がほとんど進まないエンゼルスにそのノウハウを是非とも注入して欲しいものだ。

魔術師と呼ばれる常識にとらわれない多彩な戦略
マドンは一見奇襲のようなあっと驚く戦法を採ることで知られ魔術師と呼ばれる。例えば投手の打順を8番にするというのもマドンが先鞭を付けた。外野手を4人にするシフトを考えたのもマドン。また投手に一旦外野を守らせ、その後またマウンドに上げるという日本の高校野球のような戦法を取ったこともある。

2017年のカブスでは1年間で打順を143回も入れ替えたがリーグで2位の得点を挙げた。マドンは「私がクレイジーなことをするときは、いままでの経験や数字に基づいている」 と語っている。単なる思いつきではなく、それなりの裏付けや自信があってやっていると言いたいのだろう。

リアル二刀流で大谷の才能を最大限に開花させた
マドンは1990年代にエンゼルスで働いていた時すでに二刀流というコンセプトに興味を持っていたという。打って投げられるという大谷の特異な才能はマドンの想像力を大きく刺激した。

2021年、これまで過保護気味だったソーシア、オースマスの轍を踏まず、大谷が登板時に同時に打席にも立たせるリアル二刀流を実現させた。また登板前後は試合に出さないという慣例も取りやめた。そして大谷もそれに応え、水を得た魚のように投打でフル回転。疲労を心配する周囲の声をよそに1年間やり通し、球史に残る歴史的なシーズンを送った。

エンゼルスにとって大谷は、「エースで4番」を地で行くまさに一人二役、他の誰とも替えの効かない特別な選手になった。2022年はナ・リーグでもDHが採用されることになり、DH解除の試合で大谷が降板してもそのままDHで出場できるルール改正も行われた。いずれも大谷にとっては追い風の改革で、昨年以上に活躍できる環境は整っている。マドン監督の采配ぶりに注目だ。

ジグザグ打線にこだわった結果大谷が四球攻めに
しかし中には見直して欲しい戦法もある。昨年はトラウト、レンドーンが早々にシーズン終了のケガでリタイアし大谷が打線の中心となった。マドン監督は右打者と左打者が交互に打順に入るいわゆる「ジグザク打線」を好み、左打者の大谷の後ろは右打者のゴセリン、メイフィールド、スタッシらに任せることに固執した。ところが彼らはまるで借りてきた猫のように凡打を繰り返した。

エンゼルスで大谷の次に頼りになる打者はウォルシュだったが、マドン監督は大谷と同じ左打者のウォルシュに大谷の後ろを打たせることをかたくなに拒んだ。その結果相手チームは大谷とは勝負を避けて四球攻めにした。後ろの打者が全くのヘボなのだから当然の策だ。昨年大谷が本塁打王を取れなかった理由の一つはマドンのジグザク打線偏愛にあったことは間違いない。


ペリー・ミナシアン(42歳) (GM/ゼネラル・マネジャー)

育成に定評のあるスカウト出身の新GM!ファームが枯渇して久しいエンゼルスを立て直せるか?

2021年秋、トニー・リーギンス(注*)、ジェリー・ディポト(注**)、ビリー・エプラーの後を受けて新GMに就任。この10年で3度目のGM交代である。

ミナシアンはテキサス州ダラスの出身。父親がテキサス・レンジャースのクラブハウス・マネジャーだったので、高校生のころから父親の補助としてレンジャースのベンチに出入りしていた。大学卒業後はレンジャースのスカウト兼コーチング・アシスタントとなりバック・ショワルター監督に仕えた。

29歳からトロント・ブルージェイズのスカウトとして9年働いた。ブルージェイズが2015年、2016年とア・リーグ優勝決定シリーズに駒を進めた時のプロフェッショナル・スカウティング部門の責任者がミナシアンだった。ミナシアンのもっともよく知られているスカウティングの功績はブルージェイズ時代に当時は無名だったノア・シンダーガードを1巡目指名したことだ。今回シンダーガードの獲得にミナシアンとシンダーガードの関係が有利に働いたことは想像に難くない。

2018-2020年まではブレーブスのアシスタントGM兼スカウトとして過ごした。ブレーブス時代のミナシアンは補強に貢献して、2017年に90敗したチームを2018年には90勝チームに変え、地区優勝に押し上げた。ミナシアンのいた3年間ブレーブスは全て地区優勝した。

投手補強に奔走したが、あと1枚足りずか?

エンゼルスのGMとしてミナシアンは今オフは投手陣の補強に奔走し、ノア・シンダーガード、アーロン・ループ、マイケル・ローレンゼンを獲得し、クローザーのライセル・イグレシアスとの再契約にもこぎ着けた。労使交渉が終わり、ストーブリーグが再開すると、アーチー・ブラッドリー、ライアン・テペラという実績のあるリリーフ投手も獲得した。欲を言えばもう一枚力のある先発候補が欲しかったが。

育成に大きな課題

エンゼルスの大きな問題は、2000年代はメジャーでもトップクラスの質を誇ったマイナー組織が、この10年の度重なる大型トレードにより完全に枯渇してしまったことだ。特に投手の育成は全くと言っていいほど上手く行っておらず、2008年にデビューしたジェレッド・ウィーバー以来、ただの1人もエース級を育成できていない。ミナシアンGMにはレイズやパドレスのように生え抜きの選手育成が上手な球団を見習ってファームシステムの再構築を行って欲しい。

エンゼルスの黒歴史、失敗にまみれた補強策

リーギンス、ディポト、エプラーと歴代のGMはお世辞にも補強が上手かったとはいえなかった。むしろ失敗の方が多かった。

最近の例では、投手はノラスコ、チャベス、ケーヒル、ハーヴィー、アレン、野手はコザート、ルクロイ、アップトン。全盛期はちょっと過ぎてるんじゃないの?と思われるベテランと契約してはやっぱり裏切られるの繰り返しである。逆に成功した補強はシモンズ、ラ・ステラ、スタッシくらいだろう(それでも大成功ではなく、中成功くらいだが)。ミナシアンが今後どのような補強でチームの強化を図っていくのか楽しみである。

(注*)トニー・リーギンスはエンゼルスのチケットセールスのインターンからGMにまで駆け上がった優秀な黒人だった。メジャーで初の黒人GMということで注目されたが、実質はオーナーのアルトゥロ・モレノのイエスマンに過ぎず、オーナーの鶴の一声で獲得したバーノン・ウェルズの不振の責任を取らされた形で解任された。

 

(注**)ディポトは就任1年目のシーズン中に、チームの打撃不振の責任を負わせる形で、ソーシアの永年の盟友だった打撃コーチ、ミッキー・ハッチャーを独断で解雇した。そのことが原因で二人の仲は修復不能になったと報じられている。さらに2015年、データをどう活用するかについて主力選手(プーホルスと言われている)がディポトGMのやり方に反発してコーチ陣を擁護する姿勢を見せたためディポトは孤立した。結果としてエンゼルスはディポトを切らざるを得なくなった。


アルトゥロ・モレノ(75歳) (エンゼルス・オーナー)

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贅沢税を払うことには強い抵抗を示す

現在チーム総年俸が222ミリオンのエンゼルスは贅沢税ライン(230ミリオン)まで8ミリオンしか枠が残っていない。来年はアップトンの28ミリオンの年俸はなくなるが、もし大谷、シンダーガードと再契約となると贅沢税ラインを突破するのは確実と見られている。

ところがオーナーのモレノはこれまで贅沢税を払うことは一貫して拒否している。エンゼルスがこれまで贅沢税を払ったのは2004年のみでその金額もわずか92万ドルほどだった。ドジャースは昨年だけで32ミリオンもの贅沢税を払い、ヤンキースは過去20年で350ミリオンを超える贅沢税を払っていることを考えるとモレノの渋チンぶりが際立つ。

トラウトやレンドーンといったMVP級の選手を複数抱えた上でさらにFA選手と契約すれば贅沢税ラインを突破するのは仕方のないことで、どうしても贅沢税を払いたくなければレイズやアスレチックスのようにFA選手には目もくれず、自ら育成した年俸の安い選手でチームを作るという割り切りが必要だ。現在のエンゼルスはスター選手は欲しいが、贅沢税は払いたくないという二律背反に陥っている。

大谷の延長契約にはまだ2年近い時間が残されているが、とりあえずは1年契約のシンダーガードに注目したい。トミージョン手術から本格的な復活を遂げれば年俸は30-35ミリオンくらいまで膨れ上がるのは確実だ。果たしてモレノは延長にゴーサインを出すだろうか?もしシンダーガードと延長契約したら大谷と契約するには間違いなく贅沢税ラインを突破する。逆に契約を見送ればそれは大谷と契約するための枠作りと考えられる。はたしてモレノはどうする?腹を据えて贅沢税を払うか?それとも大谷を手放すのか?

モレノは今回の労使交渉で、贅沢税ラインの引き上げに抵抗したと言う。贅沢税スレスレのエンゼルスなのになぜ引き上げに反対したのかよくわからない。自分のチームは絶対ラインを超えないと決めているので、ラインが上がって他チームが投資しやすくなるのがイヤだったのだろうか?

エンゼルスのオーナーになってからのモレノ

アリゾナ州出身。メキシコ系移民の子で、ヒスパニックとして初めて、アメリカのプロスポーツチームのオーナーになった。モレノは熱心な共和党支持者としても有名。カリフォルニアは民主党の牙城として知られているが、大統領選では臆面もなくドナルド・トランプを強烈に後押ししていた。

モレノは貧しいメキシコ系移民の子であったが、野外広告のビジネスに成功し、会社上場、球団買収とアメリカンドリームを体現した。社員として入社した広告会社では10年足らずの間に、会社の利益を50万ドルから900万ドルにしたという超凄腕の営業マンだった。

2003年のシーズン中、モレノが56歳の時にエンゼルスを前オーナーのディズニーグループから買収した。ちなみに前年の2002年にエンゼルスはチーム史上初のワールドシリーズ制覇している。買収価格は180ミリオンドル(約160億円)だったが、2022年のチーム資産価値ランキングではメジャー9位の2200ミリオン(約2700億円)、軽く買収時の10倍以上になっている。

子供の頃から野球好きで、球団買収は永年の夢だったという。一野球ファンとして経営する姿勢はファンの間で高い支持を得た。例えばチケット価格や球場内のビールが高すぎるとして値下げに踏み切ったことはモレノを語るエピソードとしてよく知られている。ホーム、アウェイを問わず、ほとんどのエンゼルスの試合を観戦している。ホームではオーナー席からしばしば抜け出して、ファンとコミュニケーションしている姿がよく見られた。

メディア戦略
2006年には地元のスペイン語放送のラジオ局を買収すると英語放送に切り替え、2008年にはAngels Radioと名前も変えて、エンゼルスの試合を専門に中継するスポーツ局として生まれ変わらせた。おそらく次のステップはヤンキースやNBAのレイカーズのように自社のテレビ中継局を持つことになるだろう。

球団弱体化
モレノが球団を買ってからすでに19年が経過しようとしているが、その間チームは世界一どころかワールドシリーズに進めてもいない。むしろここ5-6年は弱体化が進んでいる。モレノの名を上げたビールの値下げも、現在では1杯11ドルだ。元々アメリカはビールの税金も安く、350ml.缶ならばスーパーで1本70セントくらいで買えることを考えるとずいぶん高くなってしまったものだ。モレノの熱意も冷めてしまったのか。

物言うオーナー
モレノは選手獲得やチーム運営に対してしばしば口を挟み、その象徴的な例がバーノン・ウェルズの獲得だろう(後述)。モレノが短気で独裁の傾向があることはよく知られ、ウェルズ以外にも彼の鶴の一声でトレードが決まったり、選手やGMがクビになったことは枚挙にいとまがない。だがそれで上手く行った試しはほとんどなく、多くは失敗、ほとんどは大失敗に終わっている。

結局大型トレードに伴ってプロスペクトを放出し続けてチームが弱体化し、同時にサラリー高額化によって球団経営は圧迫されたという批判が渦巻いている。

また自らがヒスパニックであることから、多少実力で劣っても中南米系の選手を優遇して入団させているのではないかという噂もある(いわゆるモレノ枠)。

部下が地道に積み上げてきたことがトップの一声でひっくり返る。一般社会でもよくあることだが、そんなタイプの人間はスポーツチームのオーナーには向いていない。似たようなオーナーはNBAなどにも多々いるが、ほとんどの場合チームは低迷し、有力選手からは逃げられ、ファンからは愛想を尽かされる。

球場と周辺不動産を格安で取得
モレノとその一族は2020年にエンゼルスタジアムとその周りの駐車場、500室のアパート、公園を含む約150エーカー(18.3万坪、東京ドームの約13.6倍)の敷地をわずか150ミリオンドルで持ち主のアナハイム市から買収した。調査会社によると実際の価値は500ミリオン以上というので、森友学園の篭池夫妻も真っ青のボロ儲けディールだ。

これまでモレノはスタジアムのリース契約更新時に、球団移転をちらつかせてはアナハイム市に対して、球場を税金で改修するか、もしくは改修費用を自分たちで持つ代わりに球場とその周辺の土地を自分たちに譲渡しろと揺さぶりをかけてきた。メジャーリーグの球団を招致したい自治体はいくらでもあるので、アナハイム市はモレノの要求に屈せざるを得なかった。ビジネスマン・モレノの真骨頂発揮だ。

しかし2022年、司法当局によりこのディールは違法だとして差し戻しの判決が出ている。今後の動向は注目される。

モレノがオーナーでいる限りはエンゼルスの再生はムリ?

今後エンゼルスが再生できるかどうかはモレノが口出しせず、100%マドンとミナシアンに任せられるかにかかっている。いや、エンゼルス再建の最善策はモレノが球団を売るか、子供に継がせるかなのかもしれない。

ちなみに管理人が理想的なオーナーだと思うのは現NBAロサンゼルス・クリッパーズのオーナー、スティーブ・バルマー氏。元マイクロソフトのCEOで、あのビル・ゲイツの盟友であり、アメリカでも屈指の資産家として知られている。

彼がモレノと最も異なるところは、優秀な人材に球団経営を任せたら、決してチーム編成や補強、試合の采配などには口出ししないことだ。この忍耐強さがモレノには全く欠けている。同じ裸一貫から財を成した2人だが、モレノが自分のアイディアひとつで広告業界で成功を重ねていったのに対し、稀代のくせ者ビル・ゲイツの傍らで陰に日向にマイクロソフトを支えてきたバルマーの生き方の違いから来るものなのだろう。

モレノの引き起こした事件

以下にこれまでモレノが引き起こした事件を列記しておく。

バーノン・ウェルズ事件
トロント・ブルージェイズから2010年のオフにトレードで獲得したバーノン・ウェルズ外野手。ウェルズは成績に見合わない巨額の契約が4年も残っており、ブルージェイズの不良債権と思われていた。しかしモレノはウェルズの獲得を強力に働きかけ、当時のGMトニー・リーギンスに対して、「24時間以内にウェルズを獲得しなければ、お前はクビだ」と伝え、リーギンスはやむなくトレードに動いた。交換選手は当時長打力を売りに伸び盛りの捕手マイク・ナポリとファン・リベラだった。このトレードは酷評され「エンゼルスは史上最悪のトレードをした」「ウェルズを獲るくらいなら何もしないほうがマシだった」と言われるほどだった。

実際翌年のウェルズの成績は打率 .218、出塁率 .248はいずれもMLBワースト。結局わずか1年ほどでレギュラーの座を追われ、退団、引退することになった。そして気の毒なことだがリーギンスはウェルズ獲得と成績不振の責任を取らされオフに解任された。一方で放出したナポリは主軸を打つほどに成長し、しばしばエンゼルス戦でも痛打を浴びせた。その後球団を渡り歩きながらも2017年まで現役を続けた。

ジョシュ・ハミルトン事件
2012年オフにはまたもやモレノの強い意向でテキサス・レンジャースの主砲ジョシュ・ハミルトンと5年1億2500万ドルでFA契約したが、これまた大失敗に終わった。ハミルトンは薬物やアルコール中毒問題を当時から抱えていた。エンゼルスではケガと成績不振に苦しみ、離婚を機に再びドラッグやアルコールに手を出してしまった。この時多くのチームメートはハミルトンを手助けしようとしたがモレノは容赦せず、給料のほとんどを負担する形でレンジャーズへ出戻りさせてしまった。その後レンジャース戦では実質的に給料を払っているハミルトンにしばしば痛打を浴び、エンゼルスファンを苛立たせた。2017年でようやくハミルトンの契約は終了し、エンゼルスはハミルトン問題から開放された。

アルバート・プーホルス問題
2011年オフ、FAのアルバート・プーホルスと10年2億4000万ドルというメジャー史上2位の巨額契約を結んだ。すでに32歳になろうとしているプーホルスと10年契約はさすがに無謀と思われたが、モレノの強い希望で獲得に至った。

移籍後のプーホルスは期待された成績には程遠く、カージナルス時代の輝きを一度も放つことはなかった。最後の数年は足の故障に苦しみ打率も2割台前半、ホームランも20本そこそこだった。逆方向に当てに行くような打撃が増え、長打が打てなくなった分、何とかチャンスで打点を上げることで最低限の仕事はこなすといった感じだ。ちなみにESPNでは2016年の時点でプーホルスとエンゼルスの契約をメジャー最悪の契約と論じている。
Albert Pujols is crowned Worst Contract In Baseball by ESPN(アルバート・プーホルスがメジャー最悪契約の座に輝いた)

結局プーホルスは契約をほぼ1年残した2021年5月にDFAされ、ドジャースへと移籍した。もちろんドジャースでの給与のほとんどはエンゼルス持ちである。さらにプーホルスは2022年3月に古巣のカージナルスと1年250万ドルで契約した。この金額はエンゼルス時代の年俸の10分の1の金額である。それがここ何年かのプーホルスの本当の価値であろうし、モレノの命令でプーホルスを掴んでしまったエンゼルスは何年にもわたって極めて割高な年俸を払い続けてきたのである。

ドジャースとのトレード離脱事件
2020年2月、ドジャースがレッドソックスから前MVPのムーキー・ベッツの獲得に動いた時、そのトレードに絡んでエンゼルスは控え内野手のレンヒーフォを交換要員に、ドジャースから36本塁打を放ったピーダーソンと先発4番手のストリップリングを獲得するというエンゼルスファンにとっては夢のようなトレードが報じられた。

しかしレッドソックスが交換要員の健康状態について疑義を挟んだことからなかなかトレードが決まらなかった(最終的にはサインできた)。その間モレノはトレード話がなかなか進展しないことに腹を立て、ケツをまくってトレードから離脱してしまった。エンゼルスファンを狂喜させたトレードをオーナー自ら潰すとは・・・あきれてモノが言えないとはこのことだ。

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