エンゼルスは2015年以降、マイク・ソーシア、ブラッド・オースマス、ジョー・マドン、そしてフィル・ネビンと4人の監督で戦った。勝ち越したシーズンは一度もなく、チームの長期低迷から抜け出せていない。
GMはエリートとの呼び声も高かった前ビリー・エプラーGM(現メッツGM)は就任後5年連続で5割以下の成績しか残せず(就任後のトータルは332勝376敗、勝率.469)、契約を1年残して2020年オフに解任され、代わりに元ブレーブスのアシスタントGMだったペリー・ミナシアンがGMに就任した。ブレーブス時代は2016年に90敗したチームを1年で90勝チームに変え、2018年には地区優勝にまで押し上げた実績を持つ。
現オーナーであるアルトゥロ・モレノは2003年に球団をディズニーから買収した当時は熱心でファン思いだと非常に好意的に受け止められていた。しかししばしば現場に介入しては独善的な補強を要求し、結果としてチームは弱体化した。またファームシステムへの投資に消極的で選手育成もうまくいかず、チームが長期低落から抜け出せない根本原因となっていた。
売却計画発表が一転して撤回へ
買収時56歳だったモレノもすでに76歳、後継者もおらず、球場周辺の再開発計画も頓挫したことから2022年8月に球団を売却する事を発表した。しかし2023年1月に一転して売却計画を撤回した。育成に投資せず、贅沢税支払いもしない、そのくせにチーム編成には口を挟むモレノにうんざりしていたファンは売却計画が撤回されたことに大きく失望した。
- フィル・ネビン(51歳)
- ペリー・ミナシアン(43歳) (GM/ゼネラル・マネジャー)
- アルトゥロ・モレノ(76歳) (エンゼルス・オーナー)
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- 独善的オーナーの弊害と限界
- 見えない部分に投資を怠ったツケ
- 球団売却を発表
- 一転して売却計画を撤回
- テレビ中継局の経営不安が売却計画を直撃か?
- 大谷との延長契約はどうなる?
- これまでのモレノの球団経営
フィル・ネビン(51歳)
現役時代の成績は申し分ないが、監督としての個性がまだ見えない
エンゼルスの三塁コーチ就任4ヶ月で監督代行に
昨年のエンゼルスは就任3年目のマドン監督でスタートしたが、5月に大型連敗を喫して12連敗となったところでフロントはマドンの解任を決断した。その後監督代行として采配を執ったのは三塁ベースコーチだったフィル・ネビンだ。シーズン終了まで代行として務めたが2022年11月8日に正式に監督に就任した。
マドン監督の解任についてはちょっと早すぎたのではないか、三塁コーチしか経験のないネビンに監督を継がせた拙速ではないかという意見もあった。ミナシアンGMが自分より20歳以上年長で実績十分のマドン監督を煙たがり、連敗を機にマドン更迭を画策し後任に自分の意のままになるネビンを据えたのではないかという噂もあった。
ドラフト全体1位の超エリート。捕手としてエンゼルスにも在籍
出身はカリフォルニア州オレンジ郡にあるフラトン市。エンゼルスのお膝元アナハイム市の隣町である。高校3年時、1989年のMLBドラフト3巡目(全体82位)という高い順位でドジャースから指名されたが入団せず、地元のカリフォルニア州立大学フラトン校(CSU Fullerton)へ進学した。大学在学中の1992年にはバルセロナ・オリンピックに野球のアメリカ代表としても出場した。同年アストロズから1巡目の全体1位で指名されてプロ入りした。ちなみに同じ年のドラフトではデレク・ジーターが全体6位でヤンキースに指名されている。
アマチュア時代は捕手だったが、アストロズ入りと同時に三塁手に転向。しかしその後移籍を繰り返しながら外野手、捕手、三塁手、一塁手と守備位置を変えている。1998年のシーズンは1年間エンゼルスで捕手としてプレーした。
プロ入り後ベストの成績だったのはサンディエゴ・パドレス時代の2001年で、主に三塁手として出場し、主砲として打率.306、41本塁打、126打点、OPS .976という素晴らしい数字をあげている。しかしこの年ナ・リーグMVPを取ったのは73本塁打を放ったジャイアンツのバリー・ボンズ。MVP投票ではネビンはわずか3ポイント獲得したに過ぎなかった。この年はナ・リーグだけでもOPS 1.000越えのバッターが8人もいた打撃の時代だった。
引退後はマイナーで監督を務めた後、ジャイアンツ、ヤンキースでは三塁コーチとなり、2022年にエンゼルスの三塁コーチに就任した。しかし三塁コーチに就任して半年もせずに監督代行になるとは本人も想像だにしていなかったのではないだろうか。
成績はマドン監督以下。方向性が見えない選手起用
マドン監督が解任前の成績は27勝29敗だったが(勝率 .482)、その後ネビンが引き継いでからは戦況を変えるどころか46勝60敗(勝率 .434)と大きく成績を落としてしまった。それもあってマドンの解任は早すぎたのではないかとの意見は根強い。野手出身で引退後はマイナーでの監督経験はあるものの、メジャーでは三塁コーチしかやっていないことから特に投手交代についての手腕を疑問視する向きは多い。
例えば2022年のシーズン後半は先発投手はリーグ平均以上の数字を残したが、クローザーも日替わりになるほどブルペンは問題が山積していた。そういう事情を考えると常識的には先発投手をできるだけ深いイニングまで投げさせてブルペンの負担を軽減したいところだが、先発を5回前後で代えてしまう采配は最後まで変わらなかった。
また野手のけが人が続出し、優勝争いからも脱落した8月以降は若手を積極的に起用するかと思われたが、スズキ、ダフィ、ゴセリン、メイフィールドなどのベテランを使い続け、来期以降どういうビジョンで戦うのかも見えなかった。野球に限らず、プロスポーツチームの監督は将来ある若手よりも実績のあるベテランを使いたいという誘惑から逃れるのは大変なことのようだ。
ペリー・ミナシアン(43歳) (GM/ゼネラル・マネジャー)
育成に定評のあるスカウト出身のGM。負け犬根性の染みついたチームを戦う集団に変えられるか?
2021年秋、トニー・リーギンス(注*)、ジェリー・ディポト(注**)、ビリー・エプラーの後を受けてGMに就任。この10年で3度目のGM交代である。
ミナシアンはテキサス州ダラスの出身。父親がテキサス・レンジャースのクラブハウス・マネジャーだったので、高校生のころから父親の補助としてレンジャースのベンチに出入りしていた。大学卒業後はレンジャースのスカウト兼コーチング・アシスタントとなりバック・ショワルター監督に仕えた。
29歳からトロント・ブルージェイズのスカウトとして9年働いた。ブルージェイズが2015年、2016年とア・リーグ優勝決定シリーズに駒を進めた時のプロフェッショナル・スカウティング部門の責任者がミナシアンだった。ミナシアンのもっともよく知られているスカウティングの功績はブルージェイズ時代に当時は無名だったノア・シンダーガードを1巡目指名したことだ。昨年シンダーガードを獲得した時にミナシアンとシンダーガードの関係が有利に働いたことは想像に難くない。
2018-2020年まではブレーブスのアシスタントGM兼スカウトとして過ごした。ブレーブス時代のミナシアンは補強に貢献して、2017年に90敗したチームを2018年には90勝チームに変え、地区優勝に押し上げた。ミナシアンのいた3年間ブレーブスは全て地区優勝した。
投手補強に奔走した1年目
ミナシアンはGM就任直後の2021年オフに積極的に投手陣の補強に動き、ノア・シンダーガード、アーロン・ループ、マイケル・ローレンゼン、アーチー・ブラッドリー、ライアン・テペラを獲得し、クローザーのライセル・イグレシアスとも再契約した。
しかしシンダーガード、イグレシアスはシーズン中にトレードで放出、ローレンゼンはFA流出、ブラッドリーもFAとなって退団した(新しい所属先は決まっていない)。ループとテペラは複数年契約中だが1年当たり7ミリオンの年俸は昨年の働きを見る限り全くペイしていない。
小粒ながら野手の選手層強化に動いた2年目
昨年はレギュラーの野手が故障して代役に起用した選手がベテランも若手もほとんど戦力にならず選手層の薄さを痛感した。そのため今オフは野手の選手層強化に積極的に動き、レンフロー外野手、ドゥルーリー内野手、ウルシェラ内野手、フィリップス外野手らを獲得した。投手も先発のアンダーソン、救援右腕のエステベスを加えた。いずれも小粒な契約ばかりだが、名よりも実を取った印象だ。Bleacher Reportは「今オフに最も強化されたMLBの10球団」でエンゼルスを7位にランクしている。新オーナーが決まらず大型契約に手を出しにくい状況でミナシアンはよく頑張ったと言える。
育成に大きな課題
エンゼルスの大きな問題は、2000年代はメジャーでもトップクラスの質を誇ったマイナー組織が、この10年は完全に停滞していることだ。特に投手の育成は全くと言っていいほど上手く行っておらず、2008年にデビューしたジェレッド・ウィーバー以来、ただの1人もエース級を育成できていない。
報道によるとエンゼルスのマイナーのコーチの報酬はメジャーでも最低レベルに近く、マイナーの監督やコーチは毎年のように交代した。指導者がクルクル変わるために選手に対する指導に一貫性がなく選手も混乱してしまう。それがマイナーで選手が育たない理由の一つだった。優れたメジャーリーガーを多数輩出している中南米エリアのスカウト網も縮小した。
またデータ解析への投資も遅れていた。あるコーチは「エンゼルスのマイナーのビデオシステムがひどかったため、自身が以前ドジャース時代に使っていたものを持ち込んだ」と言う。またある選手は「相手チームは、私がどこに打つかを、私以上にわかっていた」「アストロズが3年は先を行っていた」と振り返った。
いずれもモレノ・オーナーがファームに必要な資金を投入することに消極的だったことが問題の根源で、ミナシアンGMはそんなエンゼルスの悪弊を振り払うべく奮闘中だという。
エンゼルスの黒歴史、失敗にまみれた補強策
リーギンス、ディポト、エプラーと歴代のGMはお世辞にも補強が上手かったとはいえなかった。むしろ失敗の方が多かった。
最近の例では投手はノラスコ、チャベス、ケーヒル、ハーヴィー、アレン、野手はプーホルスを筆頭にコザート、ルクロイ、アップトン。全盛期はちょっと過ぎてるんじゃないの?と思われるベテランと契約してはやっぱり裏切られるの繰り返しである。逆に成功した補強はシモンズ、ラ・ステラくらいだろう(それでも大成功ではなく、中成功くらいだが)。
(注*)トニー・リーギンスはエンゼルスのチケットセールスのインターンからGMにまで駆け上がった優秀な黒人だった。メジャーで初の黒人GMということで注目されたが、実質はオーナーのアルトゥロ・モレノのイエスマンに過ぎず、オーナーの鶴の一声で獲得したバーノン・ウェルズの不振の責任を取らされた形で解任された。
(注**)ディポトは就任1年目のシーズン中に、チームの打撃不振の責任を負わせる形で、ソーシアの永年の盟友だった打撃コーチ、ミッキー・ハッチャーを独断で解雇した。そのことが原因で二人の仲は修復不能になったと報じられている。さらに2015年、データをどう活用するかについて主力選手(プーホルスと言われている)がディポトGMのやり方に反発してコーチ陣を擁護する姿勢を見せたためディポトは孤立した。結果としてエンゼルスはディポトを切らざるを得なくなった。
アルトゥロ・モレノ(76歳) (エンゼルス・オーナー)
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独善的オーナーの弊害と限界
20年前、チームをワールドシリーズ優勝へ導くという野望に燃えてエンゼルスを買収したモレノだったが、その独善的な経営スタイルはチーム運営にはむしろ弊害の方が大きかった。球団首脳はイエスマンで固められ、モレノの意向を反映してピークを過ぎた有名FA選手獲得に傾注した。モレノが主導したほとんどの大型補強は失敗に終わりチームは弱体化、財政のフレキシビリティも失われた。モレノは有名FA選手に大枚をはたくものの、チームの総年俸が贅沢税ラインを超えることは決して許さず、チームは二律背反に陥った。
見えない部分に投資を怠ったツケ
大金持ちのモレノだが、マイナーを指導する人材、スカウト、データ解析分野への投資には消極的だった。自分の好きなもの、目立つところには大枚をはたくが、それを支える見えない部分は軽視していた。要は基本的に彼は「ケチ」なんだと思う。ケチな人間はプロスポーツチームの経営には向いていない。
必要な投資を怠ったツケで、何年にもわたりチームは低迷しオーナーへの批判は強くなる一方だった。例年ホーム開幕戦では選手、フロント、裏方まで全員の名前がコールされるが、2022年の開幕戦でモレノがアナウンスされるとファンからブーイングが起きる始末だった。
球団売却を発表
2022年8月23日、球団は唐突にチームの売却を検討すると発表した。さすがのモレノもチーム経営に対する情熱が薄れていったのだろうか。モレノには3人の子供がいるが、誰も球団経営に興味を示さず後継者がいなかったようだ。
加えてスタジアム周辺の再開発計画において不公正な土地取引があると市民から告発されると、裁判所は土地売買の差し戻しを命じた。同じ頃、計画を推進した当時のアナハイム市長にこの土地取引に絡んで不正な選挙支援の疑いが持たれると市長は辞任に追い込まれた。その後2022年5月に市議会は再開発計画の白紙撤回を全会一致で決議し計画は完全に頓挫した。
チームは弱体化し、ファンからは見放され、後継者もいない。さらに球場の再開発計画が不発に終わったことがトドメとなり、モレノはチームを売却することにしたのだろう。モレノに嫌気がさしていたエンゼルスファンは新しいオーナーの元で十分な投資が行われれば強いエンゼルスが帰ってくると沸き立った。
一転して売却計画を撤回
しかし年が明けた1月23日、突如球団は売却計画を撤回し、今後もモレノ一族が球団を所有すると発表した。
日本人を含む数人が買収に名乗りを上げたと言われている。報道によるとモレノは180ミリオンドルで買ったチームを2500~3000ミリオンドルで売りたかったらしいが(どれだけ強欲なんだ)、いずれも彼の希望額には届かなかったようだ。
このモレノの朝令暮改にまたしてもチームは足を引っ張られた。新オーナーが決まらないと新たな大型契約は結びにくく、オフの補強は小粒な物にとどまってしまったのだ。
売却撤回を受けてエンゼルスファンはふたたびどん底に突き落とされた。これまでの歴史が繰り返されるのなら大谷も他チームに行ってしまうのではないかと失望は大きかった。
テレビ中継局の経営不安が売却計画を直撃か?
エンゼルスが売却撤回を発表したわずか2日後、気になるニュースが流れた。エンゼルスの放映権を持つBarry Sports(旧Fox Sports)が破産の危機に瀕していると言うのだ。エンゼルスはBarry Sportsと2031年までホーム試合の中継料として毎年150ミリオンドルを受け取る契約をしているが、破産となるとその契約が破棄もしくは縮小され、収入が大幅に減少する可能性がある。トラウト、レンドーン、そしても潜在的には大谷の大型契約もかかえるエンゼルスにとってこの中継料が入ってこなくなれば一気に財政の大ピンチだ。買い手はデューデリ(資産調査)で大スポンサーBarry Sportsの経営状態はチェックしているはずなので、同社の経営不安が買収提示価格に大きな影響を与えた可能性は高い。
大谷との延長契約はどうなる?
現在チームとしての最大の懸案はオフにFAになる大谷との延長契約だ。大谷がここまで延長契約に応じていない理由はチームの将来が見通せないことに尽きるだろう。8年続けてプレーオフを逃しているのはタイガースと並んでメジャー最長になっている。今後もチーム戦力が上向かないようならば、プレーオフで戦える戦力を持ったチームに移籍を決断しても不思議ではない。
大谷をチームに引き留められるかはファーム、スタジアム、スカウト網、データ分析などこれまで投資を怠ってきた分野にキチンと投資して強い組織を作れるか、贅沢税ラインにこだわらず必要な戦力には必要な年俸を払えるかにかかっている。
しかし資金が潤沢だったこの10年ですら投資を怠ってきたモレノが、チームの財政危機も懸念される今後、大谷が望むようなチーム強化のための大きな投資をするかは不透明だ。
もう76歳になる老人がケチってがめつく金を貯め込んだとしても相続人が喜ぶだけで何の意味があるだろうか。それよりは金があるならその金をチームに投資して死ぬまでに強いチームを作ることを目指した方がよっぽど人生の終わり方としては素晴らしいと思うのだが。
とにかく売却を見送った以上、モレノにはオーナーとしてやるべきことをやってほしい。
スタジアム周辺再開発計画の顛末
これまでモレノはスタジアムのリース契約更新時に、球団移転をちらつかせてはアナハイム市に対して、球場を税金で改修するか、もしくは改修費用を自分たちで持つ代わりに球場とその周辺の土地を自分たちに譲渡しろと揺さぶりをかけてきた。メジャーリーグの球団を招致したい自治体はいくらでもあるので、アナハイム市はモレノの要求に屈せざるを得なかった。
そしてモレノとその一族は2020年にエンゼルスタジアムとその周りの駐車場、500室のアパート、公園を含む約150エーカー(18.3万坪、東京ドームの約13.6倍)の敷地をわずか150ミリオンドルで持ち主のアナハイム市から買収した。調査会社によると実際の価値は500ミリオン以上というからまさに濡れ手に粟のボロ儲けディールだった。その代わりエンゼルスは2050年までアナハイムを本拠地とすることで合意した。
しかし2022年、市民からこのディールは違法だと告発を受けた司法当局により、土地売買契約の差し戻しの判決が出された。加えて再開発を推進したシドゥー前市長に対して、土地売却交渉の際に機密事項を球団に提供する見返りに、球団から巨額の選挙資金を得ようとしていたという疑惑が浮上し、市長は辞任に追い込まれた。
2022年5月、アナハイム市議会はモレノへのスタジアム売却を中止することを全会一致の投票で決議し、再開発計画は完全に頓挫した。同時に2050年まで球団がアナハイムに残留するという合意も白紙となった。
これまでのモレノの球団経営
エンゼルスのオーナーになってからのモレノ
アリゾナ州出身。メキシコ系移民の子で、ヒスパニックとして初めて、アメリカのプロスポーツチームのオーナーになった。モレノは熱心な共和党支持者としても有名。カリフォルニアは民主党の牙城として知られているが、大統領選では臆面もなくドナルド・トランプを強烈に後押ししていた。
モレノは貧しいメキシコ系移民の子であったが、野外広告のビジネスに成功し、会社上場、球団買収とアメリカンドリームを体現した。社員として入社した広告会社では10年足らずの間に、会社の利益を50万ドルから900万ドルにしたという超凄腕の営業マンだった。
2003年のシーズン中、モレノが56歳の時にエンゼルスを前オーナーのディズニーグループから買収した。ちなみに前年の2002年にエンゼルスはチーム史上初のワールドシリーズ制覇している。買収価格は180ミリオンドル(約160億円)だったが、2022年のチーム資産価値ランキングではメジャー9位の2200ミリオン(約2700億円)、軽く買収時の10倍以上になっている。
子供の頃から野球好きで、球団買収は永年の夢だったという。一野球ファンとして経営する姿勢はファンの間で高い支持を得た。例えばチケット価格や球場内のビールが高すぎるとして値下げに踏み切ったことはモレノを語るエピソードとしてよく知られている。ホーム、アウェイを問わず、ほとんどのエンゼルスの試合を観戦している。ホームではオーナー席からしばしば抜け出して、ファンとコミュニケーションしている姿がよく見られた。
メディア戦略
2006年には地元のスペイン語放送のラジオ局を買収すると英語放送に切り替え、2008年にはAngels Radioと名前も変えて、エンゼルスの試合を専門に中継するスポーツ局として生まれ変わらせた。もしかしたら次に考えていたステップはヤンキースやNBAのレイカーズのように自社のテレビ中継局を持つことだったのではないだろうか。
球団弱体化
モレノが球団を買ってからすで20年、その間チームは世界一どころかワールドシリーズにも進めなかった。むしろここ5-6年は弱体化が進んでいる。モレノの名を上げたビールの値下げも、現在では1杯13ドル(710ml.) だ。元々アメリカはビールの税金も安く、350ml.缶ならばスーパーで1本70セントくらいで買えることを考えると恐ろしく高い。ビールの値段一つ取ってもモレノの熱意が冷めてしまったことをうかがわせる。
物言うオーナー
モレノは選手獲得やチーム運営に対してしばしば口を挟み、その象徴的な例がバーノン・ウェルズの獲得だろう(後述)。モレノが短気で独裁の傾向があることはよく知られ、ウェルズ以外にも彼の鶴の一声でトレードが決まったり、選手やGMがクビになったことは枚挙にいとまがない。だがそれで上手く行った試しはほとんどなく、多くは失敗、ほとんどは大失敗に終わっている。
結局大型トレードやFA選手獲得に伴ってプロスペクトやドラフト指名権を放出し続けてチームが弱体化し、同時にサラリー高額化によって球団経営は圧迫されたのだ。
贅沢税を払うことには強い抵抗を示す
オーナーのモレノはこれまで贅沢税を払うことは一貫して拒否している。エンゼルスがこれまで贅沢税を払ったのは2004年のみでその金額もわずか92万ドルほどだった。ドジャースは2021年が32ミリオン、2022年は29ミリオンもの贅沢税を払い、ヤンキースは過去20年で350ミリオンを超える贅沢税を払っていることを考えるとモレノの渋チンぶりが際立つ。
トラウトやレンドーンといったMVP級の選手を複数抱えた上でさらにFA選手と契約すれば贅沢税ラインを突破するのは仕方のないことで、どうしても贅沢税を払いたくなければレイズやアスレチックスのようにFA選手には目もくれず、自ら育成した年俸の安い選手でチームを作るという割り切りが必要だ。現在のエンゼルスはスター選手は欲しいが、贅沢税は払いたくないという二律背反に陥っている。
モレノは昨年の労使交渉で贅沢税ラインの引き上げに抵抗したと言う。贅沢税スレスレのエンゼルスなのになぜ引き上げに反対したのかよくわからない。自分のチームは絶対ラインを超えないと決めているので、ラインが上がって他チームが投資しやすくなるのがイヤだったのだろうか?
また自らがヒスパニックであることから、多少実力で劣っても中南米系の選手を優遇して入団させているのではないかという噂もあった(いわゆるモレノ枠)。
部下が地道に積み上げてきたことがトップの一声でひっくり返る。一般社会でもよくあることだが、そんなタイプの人間はスポーツチームのオーナーには向いていない。似たようなオーナーはNBAなどにも多々いるが、ほとんどの場合チームは低迷し、有力選手からは敬遠され、ファンからは愛想を尽かされる。
モレノがオーナーでいる限りはエンゼルスの再生はムリだった?
ちなみに管理人が理想的なスポーツチームのオーナーだと思うのは現NBAロサンゼルス・クリッパーズのオーナー、スティーブ・バルマー氏。元マイクロソフトのCEOで、あのビル・ゲイツの盟友であり、アメリカでも屈指の資産家として知られている。
彼がモレノと最も異なるところは、優秀な人材に球団経営を任せ、決してチーム編成や補強、試合の采配などには口出ししないことだ。この忍耐強さがモレノには全く欠けていた。同じ裸一貫から財を成した2人だが、モレノが自分のアイディアひとつで広告業界で成功を重ねていったのに対し、稀代のくせ者ビル・ゲイツの傍らで陰に日向にマイクロソフトを支えてきたバルマーの生き方の違いから来るものなのだろう。
モレノの引き起こした事件
以下にこれまでモレノが引き起こした事件を列記しておく。
バーノン・ウェルズ事件
トロント・ブルージェイズから2010年のオフにトレードで獲得したバーノン・ウェルズ外野手。ウェルズは成績に見合わない巨額の契約が4年も残っており、ブルージェイズの不良債権と思われていた。しかしモレノはウェルズの獲得を強力に働きかけ、当時のGMトニー・リーギンスに対して、「24時間以内にウェルズを獲得しなければ、お前はクビだ」と伝え、リーギンスはやむなくトレードに動いた。交換選手は当時長打力を売りに伸び盛りの捕手マイク・ナポリとファン・リベラだった。このトレードは酷評され「エンゼルスは史上最悪のトレードをした」「ウェルズを獲るくらいなら何もしないほうがマシだった」と言われるほどだった。
実際翌年のウェルズの成績は打率 .218、出塁率 .248はいずれもMLBワースト。結局わずか1年ほどでレギュラーの座を追われ、退団、引退することになった。そして気の毒なことだがリーギンスはウェルズ獲得と成績不振の責任を取らされオフに解任された。一方で放出したナポリは主軸を打つほどに成長し、しばしばエンゼルス戦でも痛打を浴びせた。その後球団を渡り歩きながらも2017年まで現役を続けた。
ジョシュ・ハミルトン事件
2012年オフにはまたもやモレノの強い意向でテキサス・レンジャースの主砲ジョシュ・ハミルトンと5年1億2500万ドルでFA契約したが、これまた大失敗に終わった。ハミルトンは薬物やアルコール中毒問題を当時から抱えていた。エンゼルスではケガと成績不振に苦しみ、離婚を機に再びドラッグやアルコールに手を出してしまった。この時多くのチームメートはハミルトンを手助けしようとしたがモレノは容赦せず、給料のほとんどを負担する形でレンジャーズへ出戻りさせてしまった。その後レンジャース戦では実質的に給料を払っているハミルトンにしばしば痛打を浴び、エンゼルスファンを苛立たせた。2017年でようやくハミルトンの契約は終了し、エンゼルスはハミルトン問題から開放された。
アルバート・プーホルス問題
2011年オフ、FAのアルバート・プーホルスと10年2億4000万ドルというメジャー史上2位の巨額契約を結んだ。すでに32歳になろうとしているプーホルスと10年契約はさすがに無謀と思われたが、モレノの強い希望で獲得に至った。
移籍後のプーホルスは期待された成績には程遠く、カージナルス時代の輝きを一度も放つことはなかった。最後の数年は足の故障に苦しみ打率も2割台前半、ホームランも20本そこそこだった。逆方向に当てに行くような打撃が増え、長打が打てなくなった分、何とかチャンスで打点を上げることで最低限の仕事はこなすといった感じだ。ちなみにESPNでは2016年の時点でプーホルスとエンゼルスの契約をメジャー最悪の契約と論じている。
Albert Pujols is crowned Worst Contract In Baseball by ESPN(アルバート・プーホルスがメジャー最悪契約の座に輝いた)
結局プーホルスは契約をほぼ1年残した2021年5月にDFAされ、ドジャースへと移籍した。もちろんドジャースでの給与のほとんどはエンゼルス持ちである。さらにプーホルスは2022年3月に古巣のカージナルスと1年250万ドルで契約した。この金額はエンゼルス時代の年俸の10分の1の金額である。それがここ何年かのプーホルスの本当の価値であろうし、モレノの命令でプーホルスを掴んでしまったエンゼルスは何年にもわたって極めて割高な年俸を払い続けてきたのである。
ドジャースとのトレード離脱事件
2020年2月、ドジャースがレッドソックスから前MVPのムーキー・ベッツの獲得に動いた時、そのトレードに絡んでエンゼルスは控え内野手のレンヒーフォを交換要員に、ドジャースから36本塁打を放ったピーダーソンと先発4番手のストリップリングを獲得するというエンゼルスファンにとっては夢のようなトレードが報じられた。
しかしレッドソックスが交換要員の健康状態について疑義を挟んだことからなかなかトレードが決まらなかった(最終的にはサインできた)。その間モレノはトレード話がなかなか進展しないことに立腹し、ケツをまくってトレードから離脱してしまった。エンゼルスファンを狂喜させたトレードをオーナー自ら潰すとは・・・あきれてモノが言えないとはこのことだ。