2019年のエンゼルスの先発投手陣を紹介する。
現在のエンゼルスにはエースがいない。力の落ちたベテランか、故障明けの中堅か、実力の定まらない若手でとりあえずローテーションを組んでいる状態だ。
若手を育てられないエンゼルス
実力のある先発投手がいない原因はいくつかあるが、最大の原因は全く若手を育てられないことだ。エンゼルス出身で、FAで長期契約を結べるほどの実績を上げた先発投手はこの20年で私は3人しか思いつかない。ジョン・ラッキー(2002年デビュー)、アービン・サンタナ(2005年デビュー)、ジェレッド・ウィーバー(2006年デビュー)の3人だ。
もちろん期待の選手は何人もいたが、思うように実力が伸びなかった、ケガでキャリアの大半を棒に振った、そういう投手ばかりだ。
ここまで若手が育たない理由はスカウティングにあるのか、マイナーでの育成にあるのか、はたまたメジャーでの起用法にあるのか?なかなか答えは出ない。
野手偏重の投資、しかも多くが不良債権化
そして野手偏重の年俸構成がそれに次ぐ原因だ。トラウト(36.8M)、プーホルス(28M)、アップトン(18M)、シモンズ(13M)、コザート(12.7M)、カルフーン(10.5M)、この6人にチーム総年俸の66.8%に当たる119ミリオンも支払っている。投手に対してほとんどお金をかけていないのだ。高額契約の野手が額面通り働いてくれればまだいいが、実際にはトラウトとシモンズ以外は不良債権に近い。
今年のローテーションは様変わり
昨年は二刀流の大谷選手の加入で先発6人ローテーションを組んだエンゼルスだったが、ギャレット・リチャーズ、マット・シューメーカー、大谷翔平の3人はおらず、去年のローテーションとは様変わりしている。。
- マット・ハービー(右投げ)
- トレバー・ケーヒル(右投げ)
- フェリックス・ペーニャ(右投げ)
- クリス・ストラットン(右投げ)
- タイラー・スカッグス(左投げ)
- アンドリュー・ヒーニー(左投げ)
- ハイミ・バリア(右投げ)
マット・ハーヴィー(29歳) 右投げ(背番号33) 故障に泣かされた落ち目の元エース
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1年、11+3Mで契約。元レッズ、FAで獲得
かつてはメッツのエースだった。2013年にはオールスターにも出場し、26試合で9勝をあげ、防御率2.27、100マイルを超える球速も記録した。しかしその年の8月にヒジの故障が発覚してトミージョン手術を受け、2014年は全休となった。復活した2015年にはメッツの大黒柱としてワールドシリーズにも出場し、カムバック賞も受賞した。
ところが2016年は今度は肩の不調から成績を落とし、夏には手術でシーズン終了。結局17試合に先発登板し、防御率4.86・4勝10敗に終わった。2017年はさらに調子を落とし、19試合登板で5勝7敗、防御率6.70で終わった。2018年は開幕からブルペンに降格し4試合に投げたが防御率は10.50と散々な成績で、5月にはDFAされ、レッズに移籍した。レッズでは再び先発となり24試合に投げたが7勝7敗、防御率4.50と平凡な成績にとどまり、シーズン後にFAとなっていた。
結局、故障に泣かされた落ち目の元エースである。希望があるとすればメッツ時代の終わりには92.6マイルしか出なかった球速がレッズでは94.4マイルへと改善傾向が見られることだ。エンゼルスでは先発の一角を担うと思われるが、どの程度の成績を残してくれるか不透明である。
トレヴァー・ケーヒル(30歳) 右投げ(背番号53) 経験は十分な元アスレチックスのエースだが・・・
1年、9M+1.5Mで契約。元アスレチックス、FAで獲得
2009年にアスレチックスでメジャーデビューすると、2010年はチーム最多の18勝、防御率はリーグ5位の2.97と大ブレーク。オールスターにも初めて選ばれ、アスレチックスのエースに成長した。しかしその後は多くのケガもあって成績の変動が大きく、トレード、マイナー落ちやDFAも経験。さらに所属チームの事情で先発と救援を行ったり来たりと見るべき成績を残せていない。昨年はアスレチックスに復帰して20試合に先発し、7勝4敗、防御率3.76だった。
平均91マイルのツーシームを中心にナックルカーブやスライダーで打者をゴロに打ち取る技巧派ピッチャーである。エンゼルスでは先発を担うと思われるが、力の衰えを考えると大幅なローテーション強化とは言い難い。
フェリックス・ペーニャ(29歳) (右投げ)(背番号64)
カブスからDFAも、2018年はエンゼルスの先発の一角に定着
2019年は年俸56万9千ドルの1年契約。来年からは年俸調停権を得る。
ドミニカ出身。プロ入りは2009年、カブス。その後2016年にメジャーデビュー。だが目立った成績は上げられず2017年オフにDFAされたのをエンゼルスに拾われた。2018年も開幕時はマイナーだったが、投手に故障者が相次いで5月にメジャー昇格した。さらに6月には大谷、リチャーズらが負傷離脱したために以降は先発ローテーションに入った。結局2018年は17試合に先発し、3勝5敗、防御率4.18の成績を上げた。
2019年は先発ローテーション入りしているが、抜群の安定感というわけではなく、当面は先発3番手、4番手という位置づけだろう。さらなる成長を期待したい。
クリス・ストラットン(28歳) (右投げ)(背番号36)
かつてのジャイアンツのドラ1だが、伸び悩んで開幕直前にエンゼルスへトレード
2012年のMLBドラフト1巡目(全体20位)でサンフランシスコ・ジャイアンツから指名され、プロ入りした。2016年にメジャー昇格したが、目立った成績は残せず、2019年3月にトレードでエンゼルスへ移籍した。エンゼルスは、ヒーニー、トロピアーノらが開幕直前に故障離脱したため急遽まとめたトレードだった。
190センチを超える長身だが、平均球速は91.7マイルほどで、カーブ、カッター、スライダーといった変化球を織り交ぜる技巧派である。2019年は年俸56万7千ドルの1年契約。
タイラー・スカッグス(27歳) 左投げ(背番号45)
2009年のドラ1。長身から投げ下ろす期待の左腕。故障がちだったが2018年はようやく通年稼働した
2018年の成績
試合数 | 勝利 | 敗戦 | イニング | 防御率 | 三振 | 四球 | WHIP |
24 | 8 | 10 | 125.1 | 4.02 | 129 | 40 | 1.33 |
2019年は年俸370万ドルの1年契約。年俸調停権が1年あり、2020年オフにフリーエージェントになる。
ドラフト1位の期待の左腕
ロサンゼルスのサンタモニカ出身。2009年にエンゼルスからドラフト1位で指名され、プロ入り。大きく曲がるカーブと速球を武器に三振を量産する本格左腕という触れ込みだった。
しかし翌2010年7月、ダイヤモンドバックスのダン・ヘイレン投手を獲得するための交換要員の一人として放出された。(ちなみにダン・ヘイレンの獲得は最近のエンゼルスとしては珍しく上手く行ったトレードだった。エンゼルスの2年半で33勝27敗を上げ、エース級の働きをした)
2012年にメジャーデビューし、2013年までの2年間で13回先発し、3勝6敗。しかし2013年オフにホワイトソックス、エンゼルスとの三角トレードでエンゼルスに復帰した。
4年間、トミー・ジョンを含む相次ぐ故障に見舞われる
ところが復帰した2014年のシーズンは8月にトミー・ジョン手術を受け、2015年末まで全休となった。2016年はマイナーで開幕となったが、今度は上腕二頭筋の腱を痛めてDL入り。メジャーに戻ってきたのは7月後半で、結局10試合しか登板できなかった。
2017年は開幕をメジャーで迎えたが、4月に腹斜筋(あばら)を痛めて再びDLへ。復帰できたのは8月に入っていた。エンゼルスに復帰してからの4年間でわずか44試合しか登板できなかった。
2018年はようやく故障なくほぼシーズンを通してローテーションを守った。エンゼルスでは数少ないサウスポーなので、ローテーションの一角として今年も期待されている。
2019年は開幕後故障でILへ
しかし2019年は左足首の故障で開幕後1試合投げただけでILに入ってしまった。4月24日頃復帰とみられている。
アンドリュー・ヒーニー(27歳) 左投げ(背番号28)
トミージョンから復活し2018年はフル稼働。飛躍が期待された2019年だが、いきなり故障者リスト入り。
2018年の成績
試合数 | 勝利 | 敗戦 | イニング | 防御率 | 三振 | 四球 | WHIP |
30 | 9 | 10 | 180.0 | 4.15 | 180 | 45 | 1.20 |
2019年は1年340万ドルで契約。2021年まで年俸調停権が残っている。2021年オフにフリーエージェントになる。
2018年は30試合、180イニングを投げ、故障者であふれたエンゼルスの投手陣を引っ張った。結果的に9勝10敗と負け越したが、トミー・ジョン手術を完全に乗り越えたことを証明した。
期待された2019年だったが3月上旬にヒジ痛を発症してIL入り。4月23日現在まだ登板はない。今のところ5月中に復帰が見込まれている。
マーリンズからドラフト1位指名
オクラホマ州出身。高校時代の2009年にタンパベイ・レイズからMLBドラフト24巡目(全体739位)で指名されるも、指名順位に納得がいかず、オクラホマ州立大学に進学。その後2012年に晴れて、マイアミ・マーリンズから1位指名(全体9位)され、プロ入りした。
プロ入り後は順調に昇格し、2年後の2014年6月に初のメジャー昇格。4試合に登板したが、0勝3敗・防御率6.53と結果を残せず、マイナーに後戻りした。そのオフ、マーリンズとドジャースとの複数選手のトレードでドジャースへ移籍。ところがその数時間後にはエンゼルスとのトレードでエンゼルスへ移籍した。
2015年はシーズン後半にエンゼルスの先発ローテーションに定着。18試合に先発して防御率3.49・6勝4敗という成績を記録し、メジャー初勝利も上げた。
2016年期待されて開幕を迎えたが、1試合投げただけで左肘痛を発症。結局7月にトミージョン手術を受け、翌2017年終了まで全休と発表された。しかし、その後は順調に回復し、2017年8月には予想よりも早く戦列復帰し、4試合に登板した。
しかし9月に今度は左肩痛を発症。チームもプレーオフ戦線から脱落したため、そのまま投げるチャンスなくシーズンを終了した。
2018年はようやく健康を取り戻し、キャリアハイを大きく更新する180イニングを投球し、ドラ1の意地を見せた。
球界初の株式銘柄に
2015年9月に、米国の投資会社であるファンテックスと契約し、自分の価値を株式として売買することを発表した。発表によるとヒーニーは今後の収入の10パーセントと引き換えに、ファンテックス社から株の販売で得られる見込みの334万ドル(約4億円)を手にすることになった。NFLの選手とはすでに同様の契約を結んでいるファンテックス社だが、メジャーリーグの選手が株式公開されることは初めて。
しかし、ヒーニーはその後トミージョンなどで実働に乏しく、実績を残したとは言い難い。カーショウやトラウトクラスならともかく、今のところ株式としては全く投資対象外銘柄だろう。
ハイミ・バリア(22歳) (右投げ)(背番号51)
16歳で契約して以来、久々に現れたエンゼルス出身の期待の先発
2018年の成績
試合数 | 勝利 | 敗戦 | イニング | 防御率 | 三振 | 四球 | WHIP |
26 | 10 | 9 | 129.1 | 3.41 | 98 | 47 | 1.27 |
2019年はメジャー最低保証年俸の56万3500ドル。
パナマ出身の21歳。16歳でエンゼルスと海外フリーエージェント選手として契約。契約金は600万円ほどだった。4年間でルーキーリーグ、ルーキー・アドバンスド・リーグ、1Aと3階層6チームを昇格していき、2017年には大きくステップアップした。その年、1Aでスタートしたが、6月には2A、シーズン終盤には3Aと異例のスピードで昇格し、年間で7勝9敗、防御率2.80、7月にはマイナーリーグのオールスターにも選出された。
ジャイアンツ戦で1人の打者にメジャー記録となる21球を投げた
2018年は開幕はマイナースタートだったが、先発投手の相次ぐ故障でついにメジャー昇格。いきなりレンジャーズ戦に先発して勝利を上げた。そして2回目の先発となったジャイアンツ戦ではジャイアンツのベルト選手に対して、1打席でのメジャー記録となる21球を費やして、最後はライトフライに討ち取った。3-2になってからファウルで粘るベルトに対して、歩かせもせず12球連続でストライクを投げ続けた。
故意にメジャー昇格とマイナー落ちを繰り返された2018年
2018年、エンゼルスは投手に故障者が相次ぎ、加えてリリーフ投手を早めにつぎ込むのを好むソーシア監督の投手起用法もあって、投手の絶対数が足りなくなってしまった。苦肉の策として先発したバリアをマイナー落ちさせ(一度マイナー落ちさせると10日間はメジャーに上げられないルールがあるため)、代わりの投手を10日間登録するという方法で投手を確保した。このためバリアは10日に1度メジャーに上がって先発しては、マイナーに落ちるというサイクルを8月いっぱいまで繰り返すことになった。MLBの「オプション」と呼ばれる1シーズンに何度でもマイナーに落とせる契約条項が残っている先発投手がバリアだけだったためこのような起用法になった。
過酷な移動、精神的な負担も大きかっただろうが、結果としてはエンゼルスの先発投手の中では唯一の二桁勝利(10勝)を上げ、最も優れた防御率(3.41)を残した。
さらなる成長が期待される2019年
2019年は1年間メジャーに定着してローテーションの一角を担うことが期待されている。2年目のジンクスを超えてさらなる成長を見せられるか注目である。
マリナーズのキング・フェルナンデスを彷彿とさせる
バリアは風貌といい投球フォームといい、シアトル・マリナーズのキングことフェリックス・フェルナンデス投手を彷彿とさせる。エンゼルスにようやく現れたイキのいい先発投手だ。