チーム紹介 2019年(監督、オーナー、GM)

チーム紹介 2019年(監督、オーナー、GM)

昨年オフ、チームを19年間率いたマイク・ソーシア監督との契約を更新せず、ブラッド・オースマス氏を新監督に迎えた。ソーシア監督の手腕はそれなりに評価されてはいたが、采配や選手起用は新鮮さを欠き、マンネリ気味だったことも否定できなかった。

新監督を選ぶに当たり、エプラーGMは「選手とのコミュニケーションが取れること」と同時に「現代的な確率論からのアプローチができること」を挙げていた。「選手とのコミュニケーション」は当たり前だ。それができないようでは個性派の揃うメジャーリーガーを1つのチームとしてまとめることはできない。

私が気になったのは「確率論からのアプローチ」、つまりフライボール革命に代表されるデータを駆使する野球ができる人間という点だ。マイク・ソーシアはいわゆるオールドスクール派の監督だった。データよりも自らの経験や数字に表れない相性を重視するタイプだ。それではもうメジャーを戦えないとGMとオーナーが判断したと言うことだろう。

オースマス新監督がどのような戦略で戦うのか興味津々である。


ブラッド・オースマス(50歳)

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アイビーリーグの名門ダートマス大学を卒業した捕手

ダートマス大学はニューハンプシャー州にある私立大学で、アイビーリーグの一角を占める名門大学。学力レベルは極めて高く、世界有数の入学難易度を誇る。入学生の94%が出身高校を上位10%以内の成績で卒業しており、その内の半数が首席または次席の成績で卒業しているらしい。

オースマスは1987年の高校卒業時にヤンキースから指名を受けたが、元々ドラフト前にダートマス大学への進学を表明しており、交渉当初も契約拒否の意向だった。しかしマイナーリーグに所属しつつ大学に通うという条件をヤンキースが飲んだためプロ入り。実際、マイナーの試合に出ながら大学を卒業した。つまりかなり優秀な人間なわけだ。叩き上げのマイク・ソーシアとは対極のタイプかもしれない。

その後1993年にパドレスでメジャー昇格して以来、2010年にドジャースで引退するまで18年間、捕手として1971試合に出場した。通算本塁打数は80本と少ないが、通算打率.251は捕手としてはなかなかの数字である。

引退後はデトロイト・タイガースの監督に

引退後は2012年の第3回WBC予選で、イスラエル代表監督を務めた。そして2013年11月にデトロイト・タイガースを68歳で勇退した名将ジム・リーランド監督の後任としてタイガースの新監督に収まった。

当時のタイガースは3冠王のミゲル・カブレラ、JD・マルチネス、投手にはジャスティン・バーランダー、マックス・シャーザー、デビッド・プライス、リック・ポーセロと言った今でも活躍する超一流の布陣を整えており、前年まで3年連続でア・リーグ中地区を制していた。2012年にはワールドシリーズにも出場したが、SFジャイアンツに3勝4敗で敗れている。

オースマスの率いた2014年も地区優勝して地区4連覇を達成したものの、高齢化する主力のケガに泣かされるようになる。2015年、カブレラ、バーランダーはケガでほとんど活躍できず、シャーザー、ポーセロらもトレードやFAで流出。前年の優勝から一転、最下位に沈んだ。この頃からタイガースはストーブリーグでは売り手に回り、戦力は低下する一途をたどる。

結局、それ以降タイガースの戦力が整うことはなく2017年シーズン終了後に、オースマスは監督を退任した。4年間の成績は314勝332敗である。

エンゼルスのGM補佐就任

タイガースの監督を辞めた後、2017年11月にエンゼルスのビリー・エプラーGMが自らの補佐としてオースマスを採用した。エプラーとしては後に監督に据えることを狙っての人事だったのかもしれない。

エプラーはこの1年間、オースマスとエンゼルスをどのように強化していくか散々話し合ってきただろう。二人とも大卒の秀才で、アストロズの巻き起こしたフライボール革命も十分に研究し、それを超えるにはどうすべきかの処方箋までできあがっているかもしれない。

オースマスは選手時代から熱心にデータを収集、分析して試合に活かしてきた。エプラーGMの言う確率論的なアプローチは彼の最も得意とするところだろう。ソーシアのような感覚的な経験論ではなく、誰もが納得できる戦法を採ってくれると信じたい。

大谷の起用はどうなる?

大谷選手の起用については新監督によっては二刀流を続けさせてもらえないのではないかと心配する声もあったが、私は全く心配していない。あれほどの投打に渡る才能を見せられればそれを最大限に利用しようと考えない監督はいないはずだ。実際二刀流をやらせたおかげで、トミー・ジョン手術を受けたにも関わらず今年は打者でチームに貢献できるではないか。どっちかを無理矢理止めさせるという選択肢は全く考えられないはずだ。


アルトゥロ・モレノ(64歳) (エンゼルス・オーナー)

エンゼルスを、裸一貫から買収へ

アリゾナ州出身。メキシコ系移民の子で、ヒスパニックとして初めて、アメリカのプロスポーツチームのオーナーになった。

2003年のシーズン中にエンゼルスを前オーナーのディズニーグループから買収した。ちなみに前年の2002年にエンゼルスはチーム史上初のワールドシリーズ制覇している。買収価格は1億8000万ドル(約160億円)だったが、今ではその5倍になっていると言われている。

貧しいメキシコ系移民の子であったが、野外広告のビジネスに成功し、会社上場、球団買収とアメリカンドリームを体現している。社員として入社した広告会社では10年足らずの間に、会社の利益を50万ドルから900万ドルにしたという超凄腕の営業マンだった。

子供の頃から野球好きで、球団買収は永年の夢だったという。一野球ファンとして経営する姿勢はファンの間で高い支持を得ている。例えばチケット価格や球場内のビールが高すぎるとして値下げに踏み切ったことはモレノを語るエピソードとしてよく知られている。ホーム、アウェイを問わず、ほとんどのエンゼルスの試合を観戦している。ホームではオーナー席からしばしば抜け出して、ファンとコミュニケーションしている姿がよく見られる。

しかし、モレノが球団を買ってからすでに16年が経過しようとしている。その間、チームは世界一どころかワールドシリーズに進めてもいない。むしろここ5年は弱体化が進んでいる。モレノの名を上げたビールの値下げだが、今年は50セント上がって1杯10.50ドルになった。元々アメリカはビールの税金が安く、350ml.缶ならばスーパーで1本70セントくらいで買えることを考えれば、ずいぶん高くなってしまったものだ。モレノの熱意も冷めてしまったのか。

バーノン・ウェルズ事件
モレノは選手獲得やチーム運営に対してしばしば口を挟み、それが逆にチームの弱体化を招いたという批判も強い。象徴的な例がトロント・ブルージェイズから2010年のオフにトレードで獲得したバーノン・ウェルズ外野手だ。ウェルズは成績に見合わない巨額の契約が4年も残っており、ブルージェイズの不良債権と思われていた。

しかしモレノはウェルズの獲得を強力に働きかけ、当時のGMトニー・リーギンスに対して、「24時間以内にウェルズを獲得しなければ、お前はクビだ」と伝え、リーギンスはやむなくトレードに動いた。交換選手は当時長打力を売りに伸び盛りの捕手マイク・ナポリだった。このトレードは酷評され「エンゼルスは史上最悪のトレードをした」「ウェルズを獲るくらいなら何もしないほうがマシだった」と言われるほどだった。

実際、翌2011年のウェルズの成績はどん底もいいところで、わずか1年ほどでレギュラーの座を追われ、退団、引退することになった。そして気の毒なことだが、リーギンスはウェルズ獲得と成績不振の責任を取らされオフに退団に追い込まれた。一方で放出したナポリは主軸を打つほどに成長し、しばしばエンゼルス戦でも痛打を浴びせた。その後球団を渡り歩きながらも2017年まで現役を続けた。

ジョシュ・ハミルトン事件
2012年オフにはまたもやモレノの強い意向でテキサス・レンジャースの主砲ジョシュ・ハミルトンと5年1億2500万ドルでFA契約したが、これまた大失敗に終わった。ハミルトンは薬物やアルコール中毒問題を当時から抱えていた。エンゼルスではケガと成績不振に苦しみ、離婚を機に再びドラッグやアルコールに手を出してしまった。この時多くのチームメートはハミルトンを手助けしようとしたがモレノは容赦せず、給料のほとんどを負担する形でレンジャーズへ出戻りさせてしまった。その後レンジャース戦では実質的に給料を払っているハミルトンにしばしば痛打を浴び、エンゼルスファンを苛立たせた。2017年でようやくハミルトンの契約は終了し、エンゼルスはハミルトン問題から開放された。

アルバート・プーホルス問題
2011年オフ、FAのアルバート・プーホルスと10年2億4000万ドルというメジャー史上2位の巨額契約を結んだ。すでに32歳になろうとしているプーホルスと10年契約はさすがに無謀と思われたが、モレノの強い希望で獲得に至った。

プーホルスは今でもエンゼルスの主軸を任されているが、移籍後は期待された成績には程遠く、カージナルス時代の輝きを一度も放っていない。近年は足の故障に苦しみ打率も2割台前半、ホームランも20本がやっとと言う状態だ。それでもエンゼルスの4番、5番に座っているが、当てに行くような打撃が増え、腰の入ったスイングができていない。なので彼が大爆発を続けてチームを連勝街道に乗せる、というような状況はとても想像できない。プーホルスとの契約はあと3年も残っており不良債権化は目の前と言わざるをえない。

球団弱体化
これらの大物選手の獲得に伴って、若手の放出によるファームの弱体化、サラリー高額化による球団経営の圧迫を招いたという批判は根強い。実際2010年前後はプレーオフの常連だったのに、ここ4年はプレーオフにも進出できていない。6年前にはドアマットチーム(他者に踏みつけられるだけの弱いチーム)だったヒューストン・アストロズが若手の育成に成功し、ワールドシリーズを制覇したのと対象的に、エンゼルスのチーム力は長期低落傾向から脱していない。


ビリー・エプラー(43歳) (GM/ゼネラル・マネジャー)

4年契約の最終年。過去3年全く結果を出せていないので進退がかかる2019年

カリフォルニア州サンディエゴの出身。コネチカット大学時代に投手としてプレーしていたが、右肩を痛めて選手を断念した。大学では会計学を専攻し、1998年に卒業後は財務アナリストとして活動するが、わずか9ヶ月で退職。その後インターンとしてNFLのワシントン・レッドスキンズで働いたのがスポーツビジネスへの嚆矢となった。

ロッキーズで頭角を現し、ヤンキースではGMの右腕に
2000年にコロラド・ロッキーズのパートタイムスカウトの職を得て野球界へ。そして2004年シーズン終了後にニューヨーク・ヤンキースへ移った。分析力に長けたエプラーはいつしかブライアン・キャッシュマンGMの右腕と呼ばれる存在になっていった。2014年にヤンキースがポスティング制度で田中将大を獲得しようとした際に、エプラーは来日を重ねて田中獲得への道を拓き、その手腕は確固たるものになった。

エンゼルスは2代前のGMトニー・リーギンス(注*)を2011年に解任した時にも、エプラーは新しいGMの候補に上がっていた(結果的にはダイアモンドバックスのGM補佐だったジェリー・ディポト氏を採用)。

エンゼルスのGMに就任
2015年、そのジェリー・ディポトGMが監督のマイク・ソーシアと意見の違いから衝突し、「やってられない」と自らGM職を放棄し辞職した(注**)。その後釜として2015年10月4日、エプラーはエンゼルスのGMに就任した。その時エプラーはマリナーズやパドレスのGMの候補にもなっていたという。エンゼルスとは2019年までの4年契約を結んでいる。

念願のGM職に就任したエプラーだったが、その時点でエンゼルスは過去の大型補強が不良債権化して、さらなる大型補強は難しい状態だった。それでもアップトン、シモンズといった好選手を引っ張ってきているのでチームを組成する手腕は確かなものがあるようだ。

そして2017年12月、大谷翔平の獲得に成功してさらに名を挙げた。大谷を獲得できた要因はソーシアを説得して、大谷の目の前で二刀流サポートの確約をさせたことだと言われている。

ちなみにエンゼルスを辞めたジェリー・ディポトはその後シアトル・マリナーズのGMに横滑りし、現在もGM職についているが、大谷獲得レースでエンゼルスに敗れたその心境はいかがなものだったろうか。ただマリナーズで再建に大なたを振るってきたディポトは、今のところチーム再建に関してはエンゼルスに先んじているようだ。

優勝と育成、大きな課題
エンゼルスの大きな問題は、以前はメジャーでもトップクラスの質を誇ったマイナー組織が、この10年の度重なる大型トレードにより完全に枯渇してしまったことだ。特に投手の育成は全くと言っていいほど上手く行っておらず、2008年にデビューしたジェレッド・ウィーバー以来、ただの1人もエース級を育成できていない。お荷物球団からわずか5年でワールドシリーズを制したアストロズは、生え抜きの選手が中心であることを見てもわかるように、次から次へと有望選手を育てられるファームシステムの再構築は急務だった。

後がない4年目
エプラーがGMになってからの過去3年、マイク・トラウトという現役最高の選手を擁しながらエンゼルスは勝ち越しが一度もない。

  • 2016 74勝88敗 ア・リーグ西地区4位
  • 2017 81勝81敗 ア・リーグ西地区2位
  • 2018 81勝81敗 ア・リーグ西地区4位

これをエプラーだけに押しつけることは出来ないが、数字が全ての世界。2019年はエプラーの進退がかかるシーズンであることは間違いないだろう。

(注*)トニー・リーギンスはエンゼルスのチケットセールスのインターンからGMにまで駆け上がった優秀な黒人だった。メジャーで初の黒人GMということで注目されたが、実質はオーナーのアルトゥロ・モレノのイエスマンに過ぎず、オーナーの鶴の一声で獲得したバーノン・ウェルズの不振の責任を取らされた形で解任された。

 

(注**)ディポトは就任1年目のシーズン中に、チームの打撃不振の責任を負わせる形で、ソーシアの永年の盟友だった打撃コーチ、ミッキー・ハッチャーを独断で解雇した。そのことが原因で二人の仲は修復不能になったと報じられている。さらに2015年、データをどう活用するかについて主力選手(プーホルスと言われている)がディポトGMのやり方に反発し、コーチ陣を擁護する姿勢を見せたためディポトは孤立した。結果としてエンゼルスはディポトを切らざるを得なくなった。

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