ネットを二分する大論争
大谷の「97%後払い契約」の騒動がいまだに収まらない。ネット上の意見は「ルールに沿っているのだから問題ない」という大谷擁護派と「贅沢税を骨抜きにする問題のある契約だ」という批判派に完全に二分されている。
プロ野球史の汚点、江川事件を思い出した
今回の騒動を見て昭和の「江川事件」を思い出した。何としても巨人に入団したかった江川卓投手と巨人が、ドラフトで得た指名の交渉権は翌年のドラフトの前々日には失効するというルールを利用して、ドラフト前日は自由契約状態だと主張して強引に契約に持って行った事件だ(いわゆる「空白の1日」)。
この時のマスコミは江川総叩きで、あのバッシングを乗り切った江川選手の精神力はハンパなかったが、イメージ的には生涯回復しきれないほどの大ダメージを負った。余談だが昭和ヒト桁生まれの私の父はそれ以来死ぬまで江川を認めなかった。
もっとも巨人に入団できれば、他球団よりも高い年俸、圧倒的な注目度、引退後も安泰なキャリアと有形無形の様々なメリットがあった江川と、自分の収入を減らしてまでドジャースの戦力増強を望んだ大谷とを同列に論じることはできないことは承知している。
江川事件の当時私は中学生で大の巨人ファンだった。事件の直後いきなり職員室に呼び出され担任から「君はどう思うか?」と質問された。「別にルールに則っているのなら構わないと思いますけど・・・」と返答した。それに対して担任は何も言わずこちらをじっと見ていたような記憶がある。
大事なことはなぜそんなルールがあるのかを考えること
しかし私も大人になってものがわかってくると「たとえルール違反ではないとしても、法の精神を侵す者は世間の人々から嫌悪される」ということを学んだ。人間としてそういうルールの背後にある「なぜこのルールが必要なのかという精神」を尊ぶことが大事なのだ。
江川事件ではドラフトルールの精神は「各球団の戦力の均衡化」であり、今回の贅沢税のルールも「チーム間の経済格差をなくし平等な競争を実現する」という考えに基づくものだ。
報道によると大谷は自分の高額な給与がドジャースのペイロールを圧迫し、チームの補強に悪影響を与えることを憂慮してこのような究極の後払いを提案したという。ならばそもそもペイロールを圧迫するような高給ではなく安い金額で契約するか、ペイロールに思い切り余裕のあるチームと契約すれば良かっただけの話だ。贅沢税のルールがあるのは大谷のような高給取りを何人もそろえるようなチームにはペナルティを科しますよという考えが背景にあるからだ。それを巨額契約を結びながらほとんど後払いという奇抜な方法で贅沢税を免れるというのは贅沢税創設の精神に反する。
考えてみると世の中はルール上は問題なくても世間から見れば納得のいかないことだらけだ。Amazonは日本でほとんど税金を払ってないと言うし、億万長者のトランプだって大統領になる前までサラリーマンの私よりも少ない税金しか払ってなかった。日本の政治家は穴だらけの政治資金規正法をかいくぐって美味しい思いをしている奴らばかりだろう。ハゲタカと呼ばれる外資は日本の会社の株を取得しては従業員を解雇して資産を売り払い巨額の利益を得ている。
大谷君だけはそんな世間の人が眉をひそめるような事とは無縁でいて欲しかった。
今からでも遅くない。契約を結び直せ!
今回の繰り延べ契約でもドジャースは贅沢税の計算上、大谷の給与として毎年46ミリオンを計上することになる。それならば最初から10年460ミリオンで契約するのと全く同じではないか。
別に大谷は700ミリオンという金額にこだわりがあるわけでもあるまい。今からでも遅くない。「あの繰り延べ契約はやり過ぎでした。野球界に良い影響を与えないと思い考え直しました」と声明を出して、10年460ミリオンで契約し直すべきだ。ドジャースだってイヤとは言えないだろう。
繰り返すが、法の精神を理解した上でルールに従うことが大事なんだ。今でこそ誰もが大谷を持ち上げて絶賛するが人生どこに落とし穴があるかわからない。将来ちょっと躓いた時に今回の契約を持ち出して叩こうとする人間が現れないとは限らない。
これまで順風満帆、何ひとつ曇りのない野球人生を送ってきた大谷の唯一の汚点とならないことを祈る。
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